さて、これは一体どういう状況なのだろうか?

「由乃さん、こっちの方は片付いたわ」
「さすが志摩子さん、仕事が速いわね。じゃあこっちはいいから祐巳さんの方を手伝ってあげて」
「分かったわ」

 今の所急ぎの仕事はないので今日はお茶会だけで終わると思っていたのだが、令が来て見ればお茶会どころかやけに張り切って仕事をしているのだ。しかも、

「あら、令。遅かったじゃない。そんな所で立ってないでこっちで座って見ればいいじゃない」
「そうね、折角なんだから可愛い教え子たちの成長振りを見守ってあげなさい」
「お姉さま、それに紅薔薇さま、これは一体………」

 現在薔薇の館には既に全員が揃っている。だが実際仕事をしているのは祐巳たち一年の三人だけである。いくら大した量ではないと言えど、三人だけにやらせるのは少し酷な気がする。

「先に言っておくけど私たちは一切関与してないわよ。私たちが来た時には既に三人が自主的に仕事を始めていただけなんだから」
「お姉さまたちは手伝ってあげないのですか?」
「手伝ってあげようとは思ったけど断られちゃった」
「何でも私達に今までの指導の成果を見せたいそうよ。すっかり頼もしくなったわね」

 今までは令たちの指示の元で仕事を手伝ってくれていた三人が、今では令たちの指示がなくても自分たちだけでやってのけている。令から見ても蓉子の言うように三人が頼もしく見える。

「出来たーーー」
「こっちも出来たわ。祐巳さん、志摩子さん、お疲れ様」
「どうやら終わったようね。たまには私がみんなのお茶を淹れてあげるわ」
「えぇっ!?紅薔薇さま自らお淹れにならなくても私たちが………」
「いいのよ、頑張った三人に私からのささやかなお礼よ」

(そう言われてしまっては三人もお言葉に甘えるしかないよね。でも由乃の目が何か企んでいる気がするのは気のせいかしら?)

「じゃあ白薔薇さま、紅薔薇さまが用意してくれている間に一応書類のチェックをしましょうか」
「了解」

(あらあら祐巳ちゃんったらすっかり萎縮しちゃって、まぁ紅薔薇さまにお茶を淹れてもらってお姉さまと白薔薇さまにチェックしてもらえば当然かな)

「うん、一通り見たけどこれと言って問題はないわ」
「こっちも問題ないわ」
「はい、三人ともお疲れ様。私からみんなにささやかなお礼よ」
「「「ありがとうございます」」」

(どうやら由乃や志摩子だけじゃなく祐巳ちゃんも問題なく終えてたようね。薔薇の館に来て間もない頃は頼りなかったのにずいぶんと成長したのね)

「で、率直に聞くけど三人は何を企んでいるのかしら?」

 三人が一息ついた頃を見計らって江利子が不敵な笑みを浮かべて問いかけてくる。

「お姉さま、企んでいるだなんて言葉が過ぎます」
「令、まさか何の思惑もなしに三人がこんな行動に出ると本気で思っているの?」
「そ、それはそうですが………」

 確かに由乃が何か企んでいそうなのは令も感じていた。だが祐巳や志摩子まで一緒になるとは到底思えなかった。実際祐巳も志摩子さんも困った顔をしているし、あれは図星を突かれたという感じには見えない。

「黄薔薇さま、私たちは別に下心があったわけじゃなくて、ただ日頃の感謝と皆さまのご指導の成果をお見せする為に………」
「祐巳ちゃんは本当に良い子ね、でも由乃ちゃんはそれだけじゃないのでしょう?」
「ええ、その通りです」
「えぇっ!?」

 祐巳は驚きのあまり思わず立ち上がってしまう。だがここまで過剰に驚いているのは祐巳だけで、江利子たちには予想通りの展開だったのかあまり驚きの様子はなかった。

「紅薔薇さまにお礼にとお茶を入れてもらって恐縮ではありますが、白薔薇さまと祥子さまと令さまにこの仕事を無事終えたことのご褒美が頂きたいのです」
「ちょっと由乃、いくらなんでも図々しいんじゃないの」

(私だけじゃなく祥子や白薔薇さままで巻き込んで一体何を考えているんだ)

「そ、そうだよ。それに私は由乃さんの恩返しがしたいという考えに賛同しただけで、令さまたちに迷惑をかけるために頑張ったんじゃないんだよ」

(………祐巳ちゃんなら迷惑なんて思わないんだけどね。って、そうじゃなくて少しは祐巳ちゃんを見習ったらどうなのよ)

「う〜ん、私は別に構わないけど。むしろ私たち相手にそこまで堂々と言える由乃ちゃんに感心しているよ。勿論あくまで由乃ちゃんの話し次第ではあるけどね。祥子はどう?」
「私も問題ありませんわ。由乃ちゃんは私たちに何をお願いしたいのかしら?」
「私からの要望は至ってシンプルです。それは………」

 確かに由乃の要望はシンプル且つ無理難題などではなかった。だがシンプルだからといって必ずしも容易とは限らないのだ。






令編


聖編



         <第七話>   <第九話>

inserted by FC2 system