「本当はあなたの事が好きなんです」

 その顔はいつもの顰めっ面ではなく、ほんのりと頬を紅め上気した顔だった。

「お互いお世辞にも良いとは言えない第一印象が原因で中々素直になれなかったんです」

 今となっては仕方のないこと、その事で彼女を責める気にはなれない。むしろ悪い印象を持たせたのは自身の方なのだから。

「ですが今となっては後悔と自責の念にかられているのです。私がちゃんと理解しようと思えばこんな遠回りをせずに済んだのですから」

 だがそんな日も今日でおしまいにする覚悟で自身の思いの丈を打ち明ける。もはやただの先輩と後輩だけの関係では満足しきれないのだ。

「もう一度言います、私は………」
「ちょっといいかしら、瞳子ちゃん?」
「さ、ささささささ祥子お姉さま!?」

 突然の乱入者に今までの雰囲気が一気に崩れてしまい、どこにでもあるような教室の一室の雰囲気へと変わる。

「練習の邪魔をしてごめんなさいね。でも瞳子ちゃん、学校では祥子さまか紅薔薇さまと呼ぶように、って言っているでしょ」
「は、はい………」
「それより随分と練習に所為が出るわね。途中からだけど迫真の演技だったわ」
「祥子お姉さ………祥子さまにそう言って貰えて何よりですわ」

 瞳子を訪ねて演劇部の部室に来た祥子が目にしたのが台本らしき物を片手に練習をする瞳子の姿だった。それは普段プロの劇を見慣れている祥子ですら見惚れるほどの演技力だった。

「『好きこそ物の上手なれ』とは言うけどそこまで上達できるなんてたいしたものよ」
「学園祭の折には是非祥子さまご覧になってください。演劇部一同歓迎しますわ。それより今日はどのような御用でしょうか?」

 いくら瞳子が演劇部に所属しているとは言え、彼女は山百合会のお手伝いと称してほぼ毎日薔薇の館を訪れている。故に今更わざわざ祥子が訪ねてこなくとも放課後になれば薔薇の館で顔を合わせる筈なのだ。そこが気になった瞳子は先ほどまで持っていた本を部屋の隅に置き、祥子に問いかける。

「ちょっと思うことがあってね、出来れば二人っきりの方が都合が良かったのよ。幸い今他の部員はいないようだから丁度いいわね」
「はぁ、もしかしていつぞやのマリア祭のような企画をお考えで?」
「そうじゃないの、ただ瞳子ちゃんに無理をしないように念を押したかっただけよ。瞳子ちゃんには感謝しているけど、このまま演劇部の練習で忙しいのに山百合会の仕事の二束の草鞋を履かせている事に責任を感じているのよ」
「そ、そんな!私は好きでやっているんですよ。祥子さまが気に病むことはないです」

 だが祥子は首を横に振り瞳子を諭そうとする。

「聞いて、瞳子ちゃん。瞳子ちゃんの協力のお陰で志摩子に妹も出来た今、当面は人手不足の心配は無いの。だから瞳子ちゃんは演劇部に専念して欲しいの。身内贔屓を抜きに見ても舞台に立っている瞳子ちゃんは輝いて見えるし、そんな瞳子ちゃんだからこそ演劇部の練習に励んで欲しいと思っているの」
「祥子さま………解りました。祥子さまの言う通り演劇部の練習に励むことにします。ですが何かあれば遠慮なく言って下さい。私に出来ることなら何でもお手伝いしますわ」

 他ならぬ祥子にそこまで言われては瞳子が祥子の提案を無碍に出来るわけがない。

「解ってくれて嬉しいわ。私の話はこれで終わりだけど折角だからもう少しだけ練習を見てていいかしら?」
「ええ、私の練習姿で良ければいくらでもご覧になって下さい」

(これで瞳子ちゃんの方も一安心ね)

 一見瞳子を思いやっている上級生の姿に見えた祥子の行為だが、内心はそこまで瞳子の事は考えてはいなかった。むしろ瞳子のことをお邪魔虫として認知していたのだ。

(これで祐巳が妹を作る機会が減って、私と祐巳の薔薇色の学園生活は安泰ね)

 つまりは厄介払いである。瞳子の真意がどうであれ、溺愛する妹を誰にも譲りたくない祥子としては例え誰であろうと祐巳の傍に妹候補を置いておきたくないのだ。

(ごめんね、瞳子ちゃん。せめて瞳子ちゃんが祐巳に興味を持ってないことが証明されるまでは薔薇の館には呼べないの)

 祥子としては瞳子が祐巳の妹になりたいとは思っていない………と言うよりそうあって欲しいと願っている。瞳子も祥子にとっては可愛い妹分なのだ。祐巳とは勿論だが瞳子とだって険悪な関係にはなりたくないと言うのは無理もない話しである。

「あ、せっかく祥子さまが着てくれたのに瞳子ったらお茶も出してないなんて………直ぐに用意しますから待ってて下さい」

 お茶の用意をするため席を立った瞳子を待つ間、暇を持て余した祥子は部屋を見渡していると先ほど瞳子が持っていた台本らしき物に目が言った。

(確かあれは瞳子ちゃんが持っていた本よね。もしかしたらこれが今度瞳子ちゃんが出る劇の台本かしら)

 思えば演劇部がどんな劇の練習をしているか聞いたことはなかった。演劇部がどんな劇をやるのか興味を持った祥子はその本を手にする。

(一体どんな話しなのかしら………あれ?)

 祥子が手にした本のタイトルは『想いを伝える108の決め技』、どう見ても台本とは思えないタイトルだある。しかもよくよく見てみると辺りには『素直になれない子の為の恋愛教授』『年上の女性の落とし方』『略奪愛のイロハ』………etc

(こ、これは………)

 いくら温室育ちの箱入り娘な祥子と言えどこれらの本の内容、そしてそれらの本を読んでいた瞳子の企みに気付かないほど愚かではない。

「祥子さま、お茶の用意が出来ました………はっ!?」
「瞳子ちゃん、まさかこれが劇で使う台本じゃないよね。じゃあさっきは何でこの本を片手に練習してたのかしら?」

 しかもよくよく見るとこの本、所々アドリブ用に書き換えられている所があり、その中にはきっちりこう書かれていた『先輩』祐巳さまと………

「瞳子ちゃんはしばらく長期休暇をとった方がいいようね」
「さ、祥子お姉さま、そんな怖い顔で睨まないでください!瞳子が何をしたと言うんですか!?」

 祥子の豹変振りに用意したお茶を落としてしまうが、今はそれどころではない。例え祥子の心情を理解して無くても本能が告げていた、逃げねば殺られると、

「ふふふふふ、せめて最後に一言だけ教えてあげるわ。出る杭は打たれる、つまりはそういうことよ」
「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」



 ………………………………………


 ………………………………


 ………………………



「お姉さま、最近瞳子ちゃん見かけませんね」
「実は瞳子ちゃん、海外に短期留学したそうよ。私も突然の話で驚いているの」
「そんな………せっかく仲良くなれてきたのに」

 とある昼休み、最近薔薇の館はおろか学校にすら来てない後輩を心配する妹の姿に申し訳なく思う。だが親戚である瞳子を辺境に追いやったことを祥子は後悔はしてなかった。何故なら

「祐巳さま、瞳子さんがいなくても私が彼女の分まで働いて見せますわ」
「可南子ちゃん、ありがとう。頼りにしているよ」
「そんな、祐巳さまにそう言って貰えるなんて光栄ですわ」

(せっかく瞳子ちゃんを蹴落としたと言うのに今度は可南子ちゃんが………いいわ、あくまで私と祐巳の学園生活を妨げると言うなら容赦しないわ)

 あくまで多くの学生が憧れる紅薔薇さまとしての笑みを絶やさないまま、内心では物騒な事を考える祥子。

(待っててね、祐巳。私と祐巳の邪魔をする者は小笠原の名の下に粛清して見せるわ)

 はたして小笠原祥子の紅薔薇は花言葉である熱烈な恋・愛情の裏返しなのか、それとも返りに血による血濡れた姿なのか………








 え〜と書いてて自分でも何がやりたかったんだろうと思ってしまいました(爆)。元々は『祥子の孫』の続編として書きたかったのに途中から合縁奇縁に移って以来放ったらかし、他のSSの片手までやりつつもとりあえず完成はさせたかったのですが………半端なことはしないに限りますね、はい。

 次回の蓉子SS又は真美SSはちゃんとした形になるよう善処しますので長い目で見守っててください。
 ではでは〜



 ではもしよければ下記ファームかメール又は掲示板に感想を頂けたら幸いです。ではでは〜





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