最近志摩子さんの様子がおかしい。どこか思いつめたような、それでいて自分の想いを押さえつけようとしている………そんな風に見える。

「志摩子さん、悩み事があるなら話してよ」
「ごめんなさい、乃梨子。でもこればっかりは私の気持ちの問題だから………」

 相談に乗ろうと何度声を掛けても志摩子さんは私に話してはくれませんでした。ですが私は志摩子さんの妹、いつまでも志摩子さんの苦しみに気付いて上げれないほど愚かではありません。志摩子さんの悩みの原因、それは祐巳さまたちが原因なのです。

「お姉さま、申し訳ありませんが今日もお先に上がらせてもらいます」
「祐巳ったら最近瞳子ちゃんに付きっ切りで私なんてどうでもいいのね」
「そ、そんな事ないですよ。瞳子も大事ですけどお姉さまだって大事なんですよ」

 一見したら瞳子を妹に迎えて以来、瞳子に付きっ切りになって姉バカ生活を満喫しているようにも見えるこの光景。

「冗談よ、出来立てほやほやの姉妹をからかってみたかっただけ。ごきげんよう、祐巳、瞳子ちゃん」
「お姉さま、それに志摩子さんに乃梨子ちゃん、ごきげんよう」
「祥子さまに白薔薇姉妹、ごきげんよう」
「………ごきげんよう、祐巳さん、瞳子ちゃん」

 確かに祐巳さまは瞳子の事を祥子さまと同等、もしかしたらそれ以上に溺愛している。だけど最近の祐巳さまはどこか志摩子さんを避けている気がする。何故なら志摩子さんがいる時に限って祐巳さまはいつも早めに上がるのだ。それも瞳子を連れて。

「祐巳さん………」

 どうしてこうなってしまったのだろう。志摩子さんも祐巳さまも仲が良かったはずなのにここ最近ギクシャクしてばかりなのだ。志摩子さんから話してくれない以上勝手な行動は慎むつもりだったが、そろそろ私も我慢の限界である。

「お姉さま、少し席を外して来ますね」

 志摩子さんの返事を待たずに私は祐巳さんたちの後を追いかける。

「祐巳さま!」
「ん、どうかしたの乃梨子ちゃん?」
「お話しがあります」
「瞳子、乃梨子ちゃんの話を聞いてくるから悪いけどちょっとの間待っててくれる?」

 どうやら祐巳さまは私が何が言いたいのか察してくれたようだ。

「解りました。では乃梨子さん、暫しの間お姉さまをお貸ししますわ」
「ありがと、瞳子。じゃあ祐巳さま、話は温室でしましょう」

 私が使うのは今日が初めてだけど、温室は山百合会幹部の憩いの場と言うイメージが強い為、あまり一般の生徒が寄ってこないので込み入った話をするにはここが適任なのだ。

「さて祐巳さま、率直に聞きますけど最近のお姉さまに対するあの態度は何なんですか!」
「ほ、本当にストレートに聞いてくるね」
「茶化さないで下さい。祐巳さまが志摩子さんを避けているのに気付かないほど白薔薇のつぼみの眼は節穴じゃないんですよ」

 たじろぐ祐巳さまの顔がコロコロ変わる。大方話すべきか話さざるべきか悩んでいるのだろう。だけど私は引くつもりはない。嫌でも話してもらう、そういった気迫で見つめ続けて数分、ようやく覚悟が付いたようである。

「志摩子さんは親友として好きだよ、これは本当」
「だったらどうして!?」
「ただ志摩子さんという一人の人間としては好きでも、私は紅薔薇のつぼみで志摩子さんは白薔薇さまなんだよ」

 どういう意味なんだろう?まさかあの祐巳さまが同年代で一足先に薔薇さまになった志摩子さんに引け目を感じているのだろうか?だが言っては悪いが、祐巳さまがそんな事で引け目を感じていてはキリがない気がする。

「先週の日曜、黄薔薇さま………じゃない江利子さま、つまり先代の黄薔薇さまに会ってね」

 って、話しが飛びすぎです!!

「その江利子さまがどうかしたんですか?」
「瞳子ちゃんという妹を持った私に紅薔薇のつぼみとしての注意点をご教授頂いたの」
「その紅薔薇のつぼみの注意点がどう関係するんですか?」
「話しは二年前に遡るの」




…………………………



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「ねぇ江利子、祥子見なかった?」
「あれ、一緒じゃないの?」
「教室に迎えに行ったのにいなかったのよ」

 蓉子は祥子を妹に迎えたものの、祥子が習い事で多忙の所為もあって中々一緒の時間が作りにくかった。だからせめて学校の中ぐらいは一緒にいたいのだが今日は未だに会えずにいた。

「やっぱりどうにかしてあの子の習い事を辞めさせた方がいいわね」
「ちょっと蓉子、いくら寂しいからって普通そんな事で習い事を辞めさせる?」
「江利子が普通を語らないでよ。それにこれは祥子の為でもあるんだから」

 そんな姉バカ振りを見せ付けられている時だった。

「蓉子ちゃん、江利子ちゃん、ごきげんよう」
「「ごきげんよう、白薔薇さま」」
「ごきげんよう、お姉さま、江利子さま」

 よく見るとお探しの祥子が白薔薇さまの横に連れ添う形でいた。

「………って、祥子!?貴女、白薔薇さまと一緒にいたの?」
「え、ええ。掃除を終えたところを白薔薇さまに捕まって………」
「祥子ちゃんは聖にはない美があるからね。ついつい手元に置いとくなるのよね」
「ちょっと白薔薇さま、急に抱きつかないで下さい」

 まるで蓉子に見せ付けるかのように祥子に抱きつく白薔薇さまに、さすがの蓉子も黙ってはいなかった。

「白薔薇さま、祥子は私の妹なんですよ。そんなに抱きつきたいのであればどうぞ聖に抱きついて下さい。そして白薔薇さまは聖の姉なのですからもう少しぐらいは姉らしくご指導してください!そもそも白薔薇さま………」
「祥子ちゃん、お姉さまは虫の居所が悪いみたいだから私と二人で安全なところへ行きましょうか」
「白薔薇さま!!」





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……………………





「とまぁこんな事があったわけなの」
「ですがそれは二年も前の話ですし、そもそもその頃は祐巳さまやお姉さまはリリアンに入学する前じゃないですか」

 乃梨子の突っ込みは至極当然のもの、だが祐巳は力なく首を横に振る。

「知らない人が聞いたらそう思うのも無理ないよね。でもこれと似た光景は三年前にもあったそうよ。そして去年も………」
「え!?」
「私たち歴代の紅薔薇のつぼみにとって白薔薇さまは紅薔薇のつぼみの妹を狙う天敵なのよ!!」
「そんな馬鹿なーーーーーー!!」

 祐巳の話を鵜呑みしたわけではないが、もし祐巳が嘘を言っているなら直ぐにボロが出るはずだ。だが祐巳がボロを出す様子はないし、先代の紅薔薇さまがかなりの姉バカである事は6月の一件で証明済みである。

(いくらご自身の妹がピンチだからって普通校内放送を私用で使って呼び出すなんて真似、普通は出来ないよね)

「じゃ、じゃあ祐巳さまはお姉さまが瞳子を狙っていると思っているんですか?」
「十中八九間違いないわ。最近の志摩子さんの瞳子を見る眼が聖さまに似てきているんだから」
「じょ、冗談ですよね?」
「きゃっ!」

 突如温室の外から聞き覚えのある声がする。

「「ま、まさか………」」

 慌てて外を出る二人が眼にしたもの、それは

「白薔薇さま、何を考えているんですか!?」
「ごめんね、瞳子ちゃん。でも私、もう我慢できないの」
「と、とにかく離して下さい!」

 瞳子に抱きしめて悦に浸る今期の白薔薇さまさまがいた。

「あら、祐巳さんに乃梨子、ごきげんよう」
「あのお姉さま?一体何___」
「志摩子さん!ついに化けの皮を剥がしたわね!いいえ、今はそれより瞳子から離れなさい!!」

 祐巳にしては珍しく声を荒げて叫ぶ。いつにない祐巳の怒気を込めた声に乃梨子は勿論瞳子も驚きを隠せないでいる。だが

「あら、祐巳さんにそれを言う権利があるのかしら?私のお姉さまを独占していた祐巳さんが」
「なっ!?」

 祐巳の豹変振りも差して気にせず、瞳子に頬擦りをする。

「冗談です」
「し、志摩子さんっ!!」
「もう、祐巳さんったら。私は祐巳さんの期待に応えただけなのに」
「期待なんてしてないです!それより私の瞳子から離れて!!」

 怒り狂う祐巳も恐れずに、むしろそんな祐巳の姿を楽しんで見ているようである。

「お姉さま、正気に戻ってください!」
「まだ乃梨子にはこの気持ちは解らないでしょうね。でも大丈夫よ、乃梨子も二年後には否応無しにも理解する日が来るわ。だって………」





 ―――だってこれが白薔薇の伝統なんですから









 あ・と・が・き

 元々はSin280さんの乃梨子SS執筆を激励する書き込みが始まりでした。

 >乃梨子SSは―――あなたの心の中にアリマス

 このコメントにじゃあこういうネタはどうですか?そんなつもりで書いた『乃梨子の手紙(遺書?)』がSin280さんが気に入ったお陰でネタ提供がSS提供になりました(苦笑)。
 その時は祐巳が聖の抱きつき癖を受け継ぐという形にしましたがやっぱり志摩子も聖の妹、いっそ白薔薇の歴史と言う形で志摩子Verを作ってみようかと思って書いたのがきっかけでした。
 ただ本編には聖のお姉さまである先々代の白薔薇さまの高山みなみさん(?)は抱きつき癖があったとは明記してありません。ただ祥子の事を気に入っていて、ほんの僅かですがツーショットシーンがあったので『白薔薇さま=紅薔薇のつぼみの妹を愛でる』という図式を創造してみたわけですw

 まぁなんにせよ瞳子は祐巳のように乃梨子に裏切られる心配がないのが唯一の救いですね。

 ではもしよければ下記ファームかメール又は掲示板に感想を頂けたら幸いです。ではでは〜







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