「これで今日の授業も終わりね♪」
「志摩子さん、授業が終る度にテンション上がるね」
「祐巳さんだってこの後祥子さまと会えることを考えると自然と頬が緩むでしょう?それと一緒よ」

 確かにその気持ちは祐巳にも理解できる。だが今はそんな暢気な事を言える状況ではないのだ。

「それはそうだけど志摩子さん、昼休み何があったか覚えている?」
「何かあったの?」
「マテや!!」

 オンドレの頭には愛しの人しかないんかい!!と胸元を掴みガンを飛ばす。

「じょ、冗談よ。でも由乃さんでしょう、きっと直ぐに元通りになるわよ」
「で、でもロザリオを返すなんて普通じゃないでしょう」
「だからこそ萌えるシチュエーション………」
「んなわけあるかい!!」

 人が真面目に相談しているのにまともに取り合おうとしない志摩子にイライラが募ってくる。

「昔はこんな人じゃなかったのにな」
「祐巳さん、恋は人を変えるのよ」
「せめて紅薔薇さまやお姉さまのような真面目な人を好きになってくれれば問題なかったのに………」

 そう、志摩子には最近付き合い始めた恋人がいるのだ。そしてその相手というのが、

「あら、黄薔薇さまも素晴らしい方よ。締める時はちゃんと締めるし、適度に息抜きも出来る方だから付き合いやすい方だわ」
「私には一体いつ締めているのかと聞きたい所だわ」
「やだ、祐巳さんのエッチ♪」
「ゴメン、やっぱり聞きたくないです」

 文化祭の後黄薔薇さまこと鳥居江利子と付き合うようになって以来、志摩子の内向的な部分はなくなった。それは良い事である。ただ少々羽目を外し過ぎな所が祐巳を始めとする多くの人たちの頭痛の種なのだ。

「と・も・か・く、由乃さんも令さまがいない以上山百合会の仕事が溜まる一方だし、二人の事だってそのままにするわけにもいかないでしょう?だったら私たちのすべき事は?」
「由乃さんと令さまの分まで幸せになる事よね。由乃さん、令さま、黄薔薇さまの事は私に任せて安らかに………」
「勝手に殺すな!!」

 ともあれこれはこれで最近では日常と化した事なのでさほど問題はなかった。この時点では………







 ハムレット







「と、とにかく志摩子さんは黄薔薇さまにこの事をきちんと報告して今後の方針について考えを聞いてきて」

 あの後江利子へこの事の報告と相談を志摩子が立候補したが、どうせイチャつこうという下心丸出しだったので祐巳自ら行こうとする意見とで大いに揉めた。それはもう思い出したくないほどに、である。結局泥棒猫呼ばわりされては堪ったものじゃないし、黄薔薇さまをかけた三角関係等とリリアンかわら版に報じられたくなかったので祐巳が折れる形となったのだ。

「ありがとう、祐巳さん。祐巳さんのご好意に甘えさせてもらうわ」
「だ・か・ら!」
「わ、分ってるわ。今日の所は自粛するわ」

 だが祐巳には分っていた。どんなに言い聞かせた所で、そして如何なる状況だろうと志摩子が江利子を前に平静を保てるわけがないということを。

「じゃあ私は一足先にお姉さまとお仕事に励むわ」
「私も直ぐに薔薇の館に向かうわ」

 事実、そう言って立ち去る祐巳に手を振りながらも志摩子の頭は江利子の事で一杯だった。

「今日は仕事も捗りそうにないから適当な所で切り上げて黄薔薇さまとデートに行こうかしら」

 現在リリアンでは『ベストスール賞を受賞したばかりの黄薔薇のつぼみとその妹がまさかの破局!?』で持ちきりだったが、今の志摩子にはさして重要ではない。精々この状況が故に仕事が捗らないぐらいしか考えていないのだ。

「デートは最近出来たばかりの水族館にしようかしら?でも黄薔薇さまのお宅に遊びに行くのも捨てがたいわね。そして黄薔薇さまのお部屋で………キャッ♪」

 もしこれが紅薔薇姉妹で、且つ志摩子の交際相手が蓉子ならそうはいかなかっただろう。蓉子は妹の祥子と孫の祐巳をこよなく愛している。もしこの二人に何かが起きれば他の全てを差し置いてでも関係の修復に望むだろう。だが江利子は違う。ここまで騒ぎが大きくなったことは初めてでも、些細な喧嘩であればこれまでも何度かあった。だがそのどれも江利子は肴にする事はあれど仲裁に入った試しはないのだ。

「あ、黄薔薇さま♪」

 結局の所志摩子にとって令と由乃の関係の良し悪しは自身と江利子の関係に支障をきたさないのだ。だからこそのこの舞い上がりよう、だがそれもここまでだった。

「ごきげんよう、黄薔薇さま♪」
「志摩子ね」
「あの、この後もし良ければ………」
「悪いけど今日はそんな気分になれないの。またね」
「え………」

 舞い上がっている志摩子とは違い、江利子は志摩子を前にしても冷めたような眼差しだった。そしてロクに話も聞かずに志摩子の前から姿を消してしまう。確かに面白いことであればどんなに突拍子もないことでもやってのけるタイプだが、志摩子に対してこれ程までに愛想を見せないのは今まで一度もなかった。

「ど、どうして………」

 江利子の態度がこうも変わってしまうなんて考えもしなかった。もしかしたら志摩子が気付いていない所で彼女の不評を買ったのかもしれない。あるいは………

「黄薔薇さま………」

 様々なことが脳裏を過ぎるがいずれも一瞬で消え去り、唯一つの事実だけが重く圧し掛かる。

(私は黄薔薇さまから嫌われた?)





          ◇   ◇   ◇





「祐巳、志摩子が中々来ないようだけど?」
「一応黄薔薇さまに今回のことを報告してから来るとは言っていましたけど………」

 あの後志摩子の別れた祐巳は薔薇の館で祥子と雑務に追われていたが未だに志摩子が来る様子はなかった。

「どんな用事にしろ黄薔薇さまに会いに行かせて志摩子が真っ直ぐ薔薇の館に来ると思っているの?」
「でしたら逆に問いますけど、あの志摩子さんからこと黄薔薇さま絡みの事を令さま以外の人が担当する事を素直に了承すると思いますか?」
「………確かに無理ね」

 その時の状況が嫌と言うほど理解できたのか祐巳共々嘆息を漏らす。かつては妹にしようとさえ思った志摩子は一体どこへ行ったのだろうか?と切に考えてしまう。

「とにかく今日は私たちだけでも出来る事をやらないといけないわ。最悪私たち二人だけかもしれないけどね」
「せめて白薔薇さまが復活していただければ楽できるんですけどね」

 志摩子と江利子の交際のショックで文字通り真っ白になってしまった聖は文化祭以降薔薇の館を来た試しがない。そんな状況で後に黄薔薇革命と呼ばれる今回の騒動、紅薔薇ファミリーには頭が痛いところである。せめて志摩子には聖の分まで働いてもらわないと割に合わない所なのだが

「ゆ、祐巳さ〜〜〜ん」
「し、志摩子さん?」
「ど、どうしたの?」
「黄薔薇さまに、黄薔薇さまに、黄薔薇さまに………」

 泣きじゃくる志摩子を必死に宥めるが本当に泣きたいのはむしろ祐巳たちの方である。この様子からして志摩子の戦力外通告は確定、そして話の流れからして黄薔薇さまも同様である。となれば机の上に山のように溜まった書類は祐巳と祥子の二人で処理しないといけないと言う事になる。

「お、落ち着いて志摩子さん。辛いなら無理に言わなくてもいいから、ね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 勿論一友人として何があったのか気にならないわけではない。だがこと黄薔薇さま絡みになると冷静さを失ってしまうので今は落ち着くまで待つしかないのだ。それから数分後、ようやく志摩子は落ち着きを見せてくる。

「ごめんなさい、すっかり取り乱してしまって………」
「これ位いいよ、私たち仲間じゃない」
「でも制服が………」

 祐巳の胸で散々泣きじゃくった所為で祐巳の制服は見るに堪えない有様となっている。それはいいだろう、先ほど祐巳が言ったように仲間としてこれ位損な役割をするのは当然のことである。しかし、

「でもせめて抱きついた時に銀杏を手放して欲しかった所だね」
「ご、ごめんなさい」

 この季節志摩子は昼休みを利用して銀杏拾いをし、それを持ち帰り好物の銀杏を堪能している。その銀杏を持ったまま祐巳に抱きついた際、運悪くビニール袋が破け祐巳と志摩子に板挟みになった銀杏の数々が潰れたのだ。

「祐巳、その位でグジグジ言うなんてみっともないわよ」
「お姉さま、そう言われるのであれば部屋の隅に逃げないで下さいよ。銀杏の匂いよりもお姉さまから避けられている方がショックなんですよ」
「ゴメンなさい、いくら姉でも出来る事と出来ない事があるのよ」

 とんだ災難と言えば災難だろう。厄日と言えば文句なしの厄日だろう。これで某銀杏王子を笑う事が出来なくなってしまった。

「と、とりあえず今はそんな些細なことは置いて置きましょう。それより志摩子、色々あって辛いのは分かるわ。でもだからと言ってそうやってメソメソしていて解決できるの?」
「お姉さま、さり気なく私を無視しましたね」

 だが祥子の言っている事には共感できるものがある。志摩子のみに何があったのか?を聞いた所でおそらく当人同士でないと解決は出来ないだろう。それならせっかく落ち着いた志摩子が思い出したように沈むより、気分転換も兼ねて目の前の仕事に従事してくれたほうが建設的というものである。

「志摩子さん、今は少しずつでも出来る事をやらないかな?少なくとも何もしないよりマシだと思うよ」
「祐巳さん、祥子さま………」

 江利子と志摩子の間に何かあったのは間違いないだろう。だがそれは蓉子に任せればそう遠くない内に片が付くと二人は見込んでいる。なので事情が不透明な令と由乃の件に比べてそこまで危機感は感じていないのだ。

「そうですね、いつまでもクヨクヨしていても仕方ないですよね」
「そうだよ。だから、ね」
「まずは祐巳さんと別れたところからお話ししないとお二人には事情が見えないですよね」

 志摩子が前向きになったことは喜ばしいことである。だがどうも嫌な予感がしてならない。

「いや、それはいいのよ」
「そう、あれは祐巳さんと別れて直ぐでした。私は黄薔薇さまとのデートの事で頭が一杯でした」
「人の話し聞けよ!!」

 そしてこういう嫌な予感に限ってよく当たるのが世の常である。志摩子が祐巳と別れ薔薇の館に来るまでほんの十数分のはずなのに気が付けば一時間以上志摩子の話に付き合わされているのだ。それも殆どが惚気話で脱線し、中々本題が進まないのだから聞いている側には堪ったものではないだろう。

「でね、黄薔薇さまは後ろから抱きしめてこう囁くの」
「し、志摩子さん、そろそろ仕事を再開したいんだけど………」
「今が良い所なの!話の腰を折らないで!!」
「は、はい………」

 終止のこの調子なのでようやく全部話し終えた時には太陽だけではなく二人の気分まで沈んでしまったのだ。

「お姉さま、何で先ほどの話しをするのに黄薔薇さまとの出逢いまで聞かないといけないんでしょう?」
「聞かないで頂戴、それにこれ以上思い出したくないわ」





          ◇   ◇   ◇





「どうしたものだろうか………」

 目の前に聳え立つ建物を前にして早数分、未だに中に入る事に抵抗を感じている。

「いつまでもこのままではいけないと言う事は理解している。でも………」

 分ってはいてもいざ目の前にすると不安と恐怖でその一歩を躊躇してしまう。もし早い段階で処理をすればここまで酷くはならなかっただろう。だがその処理をするためにはこの中に入らないといけない。結局の所この恐怖から避けては通れない運命なのだ。

「行くべきか、行かざるべきか、それが問題だわ」
「何カッコウつけているのよ!」
「あべしっ!?」

 延髄と背中に蹴りの連打が決まり地面へと叩きつけられる。

「聖じゃないけど仮にもリリアンの生徒ならそんな蛙が潰れたような声出さないでよ」
「後ろからいきなりトルネー○キックすることがリリアンの生徒のすることかしら?」
「で、あなたの妹たちが一騒動起こしているこの状況下で何しているのかしら?」
「私の妹たちって………令に何があったの?」

 色々と問い詰めたいことはあるが令の事となれば話は別である。これでも江利子は令のお姉さまなのだ。

「貴女本当に知らなかったのね」

 呆れながらも江利子の一人前にお姉さまらしい一面が見れた事に一安心し、二人の間に起きた事を話しはじめる。

(この様子なら令と由乃ちゃんの問題は江利子に任せて大丈夫ね)

「………と言うわけよ。事が事なだけに今日明日で片をつけろとは言わないけど早期に解決して欲しいことに変わりはないわ」
「えぇ〜、せっかく面白くなってきたのに直ぐに解決したらつまらないじゃない」
「え、江利子………」
「冗談よ、冗談。でもね、今回は傍観者でいることに変わりはないわ」
「どういうこと?」
「仮にもあの二人は私の妹と孫よ。いくら蓉子でもあの子達に関して言えば私が一番良く理解している。その私が何もしないんだから蓉子たちも余計な口出しはしないでよ」

 いくら他の姉妹より付き合いの長い二人とは言え、その関係が周りが言うほど完璧でない事に江利子は前々から気付いていた。そして内弁慶である由乃の性格を考えればいつかはこうなる事も想定の範囲内である。

「これを機に令は由乃ちゃんとの関係を一度見直すべきなのよ。だから令には自分で乗り切ってもらうしかないわ」
「その様子なら本当に私たちは見守るしかないようね」
「あ、でも祐巳ちゃんは由乃ちゃんとの連絡のやり取りに貸してもらおうかな。ほら、志摩子と違って祐巳ちゃんは由乃ちゃんが気に入っている節があるからね」
「それなら心配要らないわ。祐巳ちゃんは祐巳ちゃんで二人のことを心配しているから私達から何かを言わなくても自分で動くと思うわ」

 正直言えば蓉子と江利子にとって祐巳はまだ頼りない一年生と言うイメージである。仕事だってまだ安心して任せることは出来ない。だが信用はできる。祥子の時もそうだが祐巳は偏見だけで人を見る事は無い。その人の外面だけではなく悪い一面だって受け入れ、一人の人間として向き合う事が出来るのだ。

「祐巳ちゃんも不思議な子よね。まだ会って間もないのにもう薔薇さまである私達から信用されるようになったんだから」
「そうね、それに祐巳ちゃんなら安心して祥子のことを任せれそうだわ」

 思わず来年・再来年の山百合会がどんな素晴らしい姿になるのか待ち遠しくなるがあることを思い出す。

「そう言えば江利子、貴女どうしてこんな所にいるの?」
「え、それは………」

 そもそも病院の前でウジウジト唸っている江利子を見かねて蹴り声を掛けたのだ。

「前々から分っていた事なのよ。でも事態は私の想像以上に深刻になっていたわ」
「ちょっと、もしかして貴女………」
「分っているのよ、このままではいけないことは。でも中々この一歩を踏み入る勇気がもてないのよ。駄目ね、黄薔薇さまともあろう私がこの有様だなんてね」

 蓉子はいつもと違う江利子の様子に戸惑いを隠せない。少々芝居がかっているが嘘を言っている雰囲気がないのでつい深刻に捉えてしまうが

「仮にも歯科医の妹があの独特の雰囲気が苦手で親不知の治療に行けないだなんてね」
「は!?」
「間違っても志摩子には言えないわ。でも早く治したくても私にはどうしてもこの一歩が踏めないの。ね、蓉子ならこの気持ち分かるでしょ!」

 確かにあまり人には話すには恥ずかしい話しだろう。だが物事にはTPOをと言うものがあり、それを考慮すれば自ずと答えは一つである。

「ベノム・ス○ライク!!」
「ふげっ!」
「そんなこと分るわけないでしょ!それでなくても貴女と志摩子の馬鹿っプル振りに付き合わされているのにこれ以上頭痛の種を増やす気!?」
「ちょ、ちょっとタンマ!その技は別の意味で病院のお世話に………」
「イリュージョ○ダンス!!」

 蓉子の奥義が容赦なく江利子の身に降り注ぐ。その奥義による連激は江利子にうめき声すらあげさせない。そして最後の一撃で江利子の身は宙を舞い、病院内に吹き飛ばされる。幸いにも扉は開いていたので器物破損の罪には問われないだろう。

「病院の中に連れて行ってあげたんだから早く治してきなさい!」
「こ、これは連れて行ったんじゃなくて吹き飛ばしたの間違いでは………」

 ガクッ

 最後に反論を述べるものの江利子の意識は事切れてしまう。

「これで黄薔薇ファミリーの対処は済んだわね」







          ◇   ◇   ◇







「黄薔薇さま、ごきげん………よ………う?」
「ちっともごきげんようって気分じゃないけどごきげんよう、祐巳ちゃん」

 祐巳が驚くのも無理もないだろう。何故なら全身包帯やギブスで覆われて満身創痍という有様では『ごきげんよう』の挨拶を使うのを躊躇ってしまうのは当然の反応である。

「えと、確か親不知の治療をしていたと聞いたんですけど………」
「誰かさんのお陰で本当に病院にお世話になる羽目になったわ」

 本当なら歯科のみのはずが整形外科や入院といった具合に隅から隅まで病院のお世話になったのだ。本当ならもう少し入院した方が良いのだが、志摩子と令に早く会いたいという理由で早期退院してきたのだ。もっとも総合病院とは言え同じ屋根の下に歯科がある暮らしが嫌になったからというのも理由の一つである。

「祐巳ちゃんは今のままでいてね。間違ってもあんな凶暴な………」
「誰が凶暴ですって?」
「ろ、紅薔薇さま………ちょっと怖いです」
「いえいえ、せっかく従来の紅薔薇ファミリーの中で異色な祐巳ちゃんには今のままでいて欲しいと思っただけですわ」

 さすがの江利子も退院した翌日に再入院するような酔狂な考えはない。

「心配しなくても祐巳ちゃんにもいずれ教えてあげるわ。祐巳ちゃんの代も苦労しそうだからね」
「あら、由乃ちゃんの心臓というハンデがなくなった今、いつまでも紅薔薇ファミリーの天下だと思わないことね」
「それは私たち紅薔薇ファミリーへの挑戦と受け取っていいのかしら?」
「親不知とこの怪我の治れば………卒業までに、ね」

 蓉子と江利子の緊迫した空気に恐れをなす祐巳、だがそんな緊迫した空気も長くは続かなかった。

「ごきげんよう、黄薔薇さま♪」
「ごきげんよう、志摩子♪どうも志摩子を不安にしてたみたいで申し訳ないわ」
「黄薔薇さまに嫌われたわけではないならそれで十分ですわ♪」

 場の空気を読まない志摩子の登場でさすがの蓉子もうんざりしたのか、先ほどまでの気迫が一瞬で消えうせてしまう。

「そうそう、祐巳ちゃん」
「え、何ですか?」
「分っていると思うけど志摩子に余計な事言ってないわよね?」
「も、勿論です!」

 幸いその事はまだ話していないし、江利子に凄まれては今後も話すことは出来ないだろう。

「じゃあ紅薔薇さま、馬に蹴られたくないですし私たちはこの辺で失礼しましょう」
「そうね。江利子、今日はちゃんと仕事しに着なさいよ」

 そう言って蓉子と祐巳が去っていった今、残ったのは交際間もないアツアツの馬鹿っプルだけ。

「この数日間志摩子に会えなくて胸が張り裂けそうだったわ」
「私もです、どれだけこの日を一日千秋の思いで待ちわびたか」
「志摩子………」
「黄薔薇さま………」

 もはや止めるものがいない二人の情熱は際限なく燃え上がる一方である。だが

「そう言えば黄薔薇さまにお願いがあるんですけど」
「何かしら?」
「実は情けない話ですけど私、虫歯になったみたいで………」
「えっ!?」
「早く治せば良いのですが生憎あの独特の雰囲気がどうも苦手で………お願いします、一人だと勇気が出ないんです!!」

 それは遠回しに江利子に歯医者に付き合って欲しいと言う切な願いだった。

「場所は○○診療所なんですけど………」

(それって兄貴の診療所じゃない!?)

 勿論江利子としては志摩子のお願い事を断るつもりはないが、今回ばかりは状況が悪過ぎた。昨日まで嫌と言うほど味わってきた地獄のような日々が脳裏を過ぎり思わず後退ってしまう。

(せっかくあの地獄のような世界から抜け出したと言うのにまた行けというの!?)

「やっぱり駄目ですよね、高校生になってまで歯医者によう行けないなんて白薔薇のつぼみ失格ですよね」

 志摩子は無意識のつもりでも今の発言でグサッときてしまう。

(志摩子の苦しみは痛いほど分る、痛いほど分るからこそ一緒に行ってやれない自分が情けない………)

 だが他ならぬ志摩子の頼みを無碍にできるかと言えばNoである。とは言え歯医者に行くかどうかとなるとまた別問題。

「行くべきか行かざるべきか、それが問題ね」










 あ と が き

 え〜と、シェイクスピア四大悲劇ハムレットの名台詞………といっても舞台ではあまり目立ったシーンではないんですけど『生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ』を洒落てSSを書こうという企画だったのに、いつの間にか志摩子や蓉子さまが壊れ過ぎてそっちがメインになってしまいました(苦笑)。
 気が付けば志摩子は江利子と馬鹿っプル、江利子の入院理由が蓉子さまのお怒りで………ちなみに蓉子さまが何をしたのか分らない人は龍虎もしくはKOFがヒントです。





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