「はい、瞳子」
「乃梨子さん、ありがとうございます」

 乃梨子の淹れてくれた紅茶を一口含み一息入れる。

「先ほどは見苦しい所をお見せしましたね」
「いいよ、今更気にする事じゃないでしょう」
「今更って………乃梨子さん、貴女は私のことをどう見ているんですか?」

 瞳子自身冗談を返せれる位落ち着きを取り戻せた事に一安心する。何せ先ほど乃梨子に見せたあの取り乱しようは………改めて思い出しただけでも顔が赤くなってしまう。

「で、そろそろ何をしようとしていたのか話してくれる?」
「何であんなに取り乱していたか?ではなく、何をしようとしていたのかをお聞きになるんですね」
「どうせロクでもないことを考えて自爆したんでしょ?だったらそのロクでもないことを聞いた方が話が早い、そうでしょう?」
「………………」

 全く持ってその通りなので反論する事は出来ない。ただいくら乃梨子に泣きついたとは言え、軽々しく話せることではない。なので瞳子に出来るのは黙り込むだけである。

「はぁ、瞳子って本当強情だね」
「だったら放って置いて下さい。乃梨子さんにだって触れられたくない事の一つや二つぐらいおありでしょう?」
「それは同感だけど瞳子にだけは言われたくないな。例えばマリア祭の時の事とかさ」
「ぐっ、今更そんな昔の話しを持ち出しますか」
「昔ってまだ一月ぐらいしか経ってないでしょう」
「〜〜〜〜〜っ!!」

 思えばいつも瞳子は乃梨子にいいようにあしらわれている気がする。今のように弁論もそうだが、学園生活においても同様である。今でこそ素直に祝福できるが、白薔薇のつぼみの座を狙っていた瞳子にとって乃梨子と志摩子が親しくなっていた事にショックを受けたのは紛れもない事実である。

「乃梨子さんってある意味目の上のたんこぶですわ」
「それって敗北宣言って受け取っていいかな?もしそうならこの際洗い浚い話してみたらどう?」
「話しが飛び過ぎです!!」
「瞳子には話しが飛躍している思うかもしれないけど、私これでも瞳子の事本気で心配しているのよ」

 そして急に真摯な眼差しを向けてくるその姿に瞳子は白旗を振るのみである。

「分りましたわ、そこまで仰るなら私の懺悔に付き合ってください」






 降り止まぬ雨 第四話






 ――――桂?あの子に興味あるの?


 ――――でもあの子は止めた方がいいよ。


 ――――あの子にどんなお姉さまになって欲しいのかは知らないけどたぶん貴女の期待には応えれないと思うわ。


 ――――姉妹仲が良くなかった?確かに黄薔薇革命の時姉妹解消にはなったけどさ、仲が悪くて解消したわけではないわ。


 ――――そこだけは姉妹を解消した他の連中も同じだけど私たちの場合ちょっと事情が違うかな。


 ――――え?そんな事まで聞きたいの?今年の一年は物怖じしないわね。


 ――――分った分った、ちゃんと話すわ。桂が私と姉妹を解消したのは由乃さんの影響があるのは間違いないわ。


 ――――でも姉妹解消の一番の理由はクラスメイトの存在よ。


 ――――心当たりがあるようね、多分貴女の考えている通りよ。当時の紅薔薇のつぼみの妹、つまり祐巳さんよ。


 ――――最初は仲の良いクラスメイトがいると言うレベルだった。


 ――――でも彼女が祥子さんの妹になってから様子が変わった………ううん、自分の気持ちに気付いたというべきね。


 ――――桂にとって祐巳さんの存在がどれだけ大きかったのか、彼女が遠い存在になった事で気付いたのよ。


 ――――そしてその想いが姉である私への裏切りと思ったようね。


 ――――結果桂は黄薔薇革命に乗じて私にロザリオを返したわ。他の人に本当の理由を知られないためにね。


 ――――その後何とか説得に応じ元通り姉妹に戻れたけど祐巳さんへの想いは捨てきれなかったようね。


 ――――もし私に桂を止めてもらおうと考えているなら他を当たって頂戴。私には姉妹でい続けることしか出来なかったから………







          ◇   ◇   ◇







 翌日、二年の教室の並ぶ廊下を一年生が我が物顔で歩いていた。

(本当どいつもこいつも自分勝手なんだから!!)

 だが誰もその事を咎めようとはしなかった。それは彼女が白薔薇のつぼみだからという理由だけではない。

(紅薔薇さまも、祐巳さまも、瞳子も、桂さまも………)

 直接声にこそ出してないものの、激情を露わにした彼女に話しかけるには一学年上だからという理由だけでは心許無いのだ。

(もう我慢できないっ!誰が何と言おうと私は私で勝手にやるわ!!)

 そして彼女が辿り着いた場所は二年松組、福沢祐巳と島津由乃のクラスである。

「失礼します!!」
「の、乃梨子ちゃん!?どうした………」

 祐巳のことがあるとは言え、このクラスには黄薔薇のつぼみである由乃がいるので白薔薇のつぼみである乃梨子が来る事は何の不思議もないこと。だが彼女の様子が尋常でないのは誰の目にも明らかである。

「祐巳さま、ちょっと付き合ってもらいます!」
「え、もう少しで予鈴が………」
「ではみなさま、ごきげんよう」

 乃梨子はそのまま断りも取らずに祐巳の腕を掴みを連れて行こうとする。

「乃梨子ちゃん、待ちなさい!!」
「よ、由乃さん、私は大丈夫だから。先生には適当に誤魔化しておいて」
「ゆ、祐巳さん!」

 祐巳も乃梨子の様子がただ事でないと感じたのか、留めに入ろうとする由乃を制し乃梨子に引っ張られる形で後を追う。

「乃梨子ちゃん、どこに向かいたいのかは知らないけどちゃんと話は聞くからその手を離してくれないかな?さすがにちょっと痛いから、ね」
「………絶対逃げないで下さいよ」
「私も一応上級生よ、一年生の声に耳を傾けないほど薄情じゃないわ」

 その言葉に嘘偽りがないことを察した乃梨子は手を緩める。

「とりあえず人目の付かない所………講堂の裏に行きましょう」
「人目が気になるなら温室にしない?私も何度か使っているけど、あそこは滅多に人が来ないから密談には丁度いいよ」
「でしたら温室にしましょう」

 入学して二月過ぎたとは言え、まだ不慣れなところもあるので祐巳の提案を受け入れ温室へと向かう。向かう途中思い出したように祐巳が怪訝な顔をしていたが、さすがの乃梨子もそこまでは気付くことはできなかった。

「で、乃梨子ちゃんは私に何が聞きたいの?」
「まず最初にお尋ねしますが祐巳さまは今の生活、あの事故以来のこの生活に疑問を感じませんか?」
「疑問って随分抽象的だね」
「では言い方を変えますね祐巳さまが誰の妹だったか理解していますか?紅薔薇のつぼみ!!」

 乃梨子に腹の探り合いと言う茶番をするつもりなんてなかった。単刀直入に一番聞きたい事を問い詰める。

「紅薔薇のつぼみって………私はそんな人間じゃないし、そもそも姉も妹もいないよ」
「本当にそう思っているんですか!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。確かに事故以来記憶に違和感を感じることはあるけど、もしお姉さまがいるならロザリオを持っているはずでしょう」

 リリアンの生徒にとって姉妹の証とも言えるロザリオ、それがあるならたとえ記憶を失っていたとしても姉が、もしくは妹にしようとしている子がいると考えれるだろう。だが祐巳の首にはロザリオは掛けられていないし、祐巳の部屋にもロザリオはない。

「それとも私が紅薔薇さまのつぼみで更に妹がいると言うの?」
「い、いえ、祐巳さまに妹がいたと言う話は無かったはずです」
「だったらどうして私はロザリオを持っていないのかな?」
「そ、それは………」

 いくらストレートに問い詰めているとは言え、二人の仲違いの事まで話していいものか迷ってしまう。そもそもこの仲違いも二人かしてみれば乃梨子は部外者同然、乃梨子の知っている事も瞳子から聞いただけに過ぎない。

「私にはその理由に答えていいのか分かりかねます」
「その様子だと何か言い辛い理由があるようだね」
「はい、その代わりこちらをご覧になってください」
「こ、これは………」

 少なくともこれで祐巳が紅薔薇のつぼみだったことは証明できただろう。

「いくらゴシップばかりとは言え、紅薔薇さまのコメントや写真付きの記事で捏造は考えられないですよね?」
「あ、あ、あ、あ、あ………」
「これでもまだ私の言葉を信じてもらえませんか!!」

 それは去年の学園祭後のリリアンかわら版、そしてその見出しは

『独占インタビュー・!紅薔薇のつぼみ、妹について大いに語る』

 祐巳のコメントこそ無いものの、祥子が祐巳を妹にした経緯やツーショットの写真が二人が姉妹だと言う事を証明している。

「これでもまだ思い出せませんか?祐巳さまは事故が起きる前まで紅薔薇のつぼみ、小笠原祥子さまの妹だったと言う事を!!」
「こ………れは………わた………し………?ううん………、確かにこれは私………」

 口で言っただけでは記憶の矛盾に気付けなかっただろう。だがリリアンかわら版は祐巳の心に、魂に刻まれた記憶に大きな波紋を起こしたのだ。

「私は………そう、学園祭で祥子さまの妹に………山百合会幹部の仲間入りした………」

 そして壊れた映写機のように断片的に記憶が一つ、また一つと蘇っていく。

「そして聖さまとお姉さまの家に泊まったり、黄薔薇革命が起きたり、志摩子さんがマリア様の心で日舞を舞ったり、バレンタインの企画でお姉さまのカードを探しにここに来たり………」

 それは時系列では無かった、だが次第に記憶はより新しいモノへと流れていく。

「そして乃梨子ちゃんが薔薇の館に来るようになって………あれ?」
「祐巳さま?」
「どうしてお姉さまが顔が思い出せないの?あんなに好きだったのに、姉妹になる前からずっとお姉さまの事を見ていたはずなのにどうしてお姉さまの顔顔も出せないの!?」

 確かに記憶は一つまた一つと思い出していく。お姉さまである祥子の姿も鮮明に思い浮かべれるのに何故か顔だけが思い出せない。どんなに思い浮かべようとまるで霧がかかったようにその顔だけが思い出せないのだ。そしてその霧は次第に人の形をし、祐巳と祥子を隔てる壁のように立ち塞がる。

「誰なの?私からお姉さまを引き離そうとする貴女は一体誰なの!?」
「祐巳さま、落ち着いて下さい」
「止めて!私からお姉さまを奪わないで!!」

 次第に遠く離れていく祥子の幻影を追うように手を伸ばすがその手は空を切るだけ、いつしか祥子の幻影は消え去りその姿すら思い出せなくなってしまう。それは祐巳にとって悪夢のような日々の再現に他ならない。

「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゆ、祐巳さま!?」

 狂ったように叫び声をあげる祐巳を落ち着かせようと手を差し伸べるが、

 パンッ!

「痛っ!?」

 差し伸べた手を叩かれてしまう。勿論意識して叩いたわけではないだろう。だがだからこそこれは明確な拒絶に他ならない。もはや乃梨子の言葉は祐巳には届かないのだ。

「祐巳っ!?」
「あ、貴女は………」
「もう大丈夫、私がいるから!何があっても祐巳は私が守るからっ!!」

 祐巳の事を探していたであろう桂は温室に入るなり泣き叫ぶ祐巳を抱きしめ必死に宥めようとする。

「か、桂さん?」
「落ち着いた?」
「う、うん………あれ?私、どうしてここにいるの?」
「「え?」」

 桂の呼びかけが実ったのか、ようやく落ち着きを見せた祐巳。だがその様子は先ほどとは別の意味で異質だった。

「教室にいたと思っていたんだけど………ねぇ、桂さんがここへ連れてきたの?」
「う、ううん。祐巳さんが温室に向かうのを見たから後を追いかけていたんだけど………」

 その様子を見る限り乃梨子が教室に押しかけた頃からの記憶が無くなったようである。祐巳の様子に戸惑いを覚えながらもどう説明していいのか答えに困ってしまう。それは乃梨子も同様で、いつの間にか蚊帳の外に追い出された乃梨子にはどう立ち入っていいのか思わず桂の顔を窺うが

「………大方寝ぼけて温室に来たんじゃないの?ほら、祐巳ってどこか抜けているし」

 桂は乃梨子を一瞥すると直ぐに顔を背け祐巳へと向き直し話を誤魔化そうとする。それはまるで乃梨子という存在そのものを否定するかのように無視を決め、また祐巳の意識を自分だけへ向けようとするようである。

「酷いなぁ、私そこまで抜けてないもん」
「じゃあどうして祐巳はここにいるの?」
「そ、それは………」
「まぁ、その話はもういいわ。それよりそろそろ予鈴が鳴るから教室に戻りましょう」
「そうだね、でも私は夢遊病なんかじゃないからね」

 はいはい、と流しながら祐巳を温室の外へと連れ出し、

「あ、蔦子さんが探していたよ。ちょっと急いだ方が良くない?私はよる所があるから祐巳は真っ直ぐ教室に向かった方が良いよ」
「そうなの?じゃあ私は先を急ぐかね」

 そして祐巳がこの場を後にするのを確認し、再び温室へ戻る。そして未だ呆然とする乃梨子の前へ行き

 パンッ!!

「………………」
「何で叩かれたか分るよね?だったら二度と私と祐巳の前に来ないで頂戴。勿論他の薔薇さまたちも同様よ、まぁクラスメイトの由乃さんは仕方ないけどね」

 言いたい事だけ言って桂は乃梨子の話も聞かず温室を後にする。いずれにせよ今の乃梨子には反論する気力はなかった。


 ――――記憶なんてきっかけがあれば直ぐに思い出せると思っていた。


 確かにそれは全く的外れと言うわけではなかった。


 ――――仮に思い出せなくとも桂との茶番の真相を明かし、一つでも頭痛の種を減らすつもりだった。


 桂が、もしくは他の誰かが乱入する事も想定はしていた。しかし、


 ――――祐巳さまと紅薔薇さまの間に出来た亀裂がこれ程までに深刻だったなんて………


 祐巳の記憶喪失の原因は交通事故によるもの、祥子のことを拒絶する事はないと思ったのがそもそもの間違いだったのだ。祥子のことを思い出そうとしただけであの有様である。ましてやせっかく思い出していたはずの他の事柄すらまた忘れてしまったのだ。

「でも、それでもこのままって訳にはいかないよね」

 確かに先ほどは大きな失態を犯した、それは認めよう。だが乃梨子はこのまま泣き寝入りなんてする気にはなれなかった。いや、折れそうだった心を必死に繋ぎとめたのだ。

「瞳子をあのままには出来ない、あんなのでも一応クラスメイトだからね」

 ここで乃梨子が折れてしまっては瞳子を救える人間がいなくなってしまう、もしいたとしても瞳子が救われるのが遥か先になる可能性が極めて高い。それを理解しているからこその必死の強がりなのだ。

「どうせ私は部外者なんだ、だったら部外者らしく好き勝手やらせてもらうわ!!」







          ◇   ◇   ◇






「志摩子さんもよくもまぁこんな礼儀知らずでしつこい子を妹にしたものよね」
「あいにく外様だからリリアンの風習ってイマイチ馴染めないんですよね。まぁ一つ言えるのはお姉さまは貴女のような盗人猛々しい人より私の方が相性が良かったって事なんでしょうね」

 今の二年藤組を一言で言い表すなら戦場、これに尽きるだろう。いくら白薔薇のつぼみとは言え、リリアンに入学して間もない一年生が上級生に喧嘩を売っているのだから。

「か、桂さん。乃梨子も落ち着いて」
「志摩子さんは心配する事ないよ。これはあくまで一上級生として身を弁えない下級生を躾けようとしているだけだから」
「心配しなくても以前紅薔薇さまとやったような不毛な事はしないよ。ただ世間知らずのお嬢様に僭越ながら世の理というものを説いて差し上げるだけですから」

 桂のクラスメイトであり、乃梨子の姉である志摩子は先ほどから二人を止めようとするが、二人のただならぬ雰囲気に圧されて強く出ることが出来ない。

「人の忠告………ううん、警告を無視してよくもまぁ私の前に顔を出せるわね」
「これでも白薔薇のつぼみですからね、責任ある立場として一時の感情に流されないようにしないといけないの。貴女と違ってね」
「一時の感情に流されるのは貴女じゃないの?私はより安全で合理的な方法を………」
「虚言で彩られた自分勝手な世界で悦に浸っているだけでしょう?」

 パンッ!!

 温室で叩い時以上の音が鳴る。

「いい加減にしなさい!」
「図星を指され逆ギレですか、それとも私にそれを気付かされた事に対する八つ当たりですか?」
「このっ!」
「桂さん落ち着いて!」
「相手は一年なのよ」

 再び乃梨子を叩こうとするがクラスメイトに止められてしまう。

「回りくどい言い方をしないで単刀直入に言ってあげましょうか?これ以上私たちの邪魔をしないでくれませんか?いい加減目障りなんですけど」
「貴女に祐巳さんの何が分るというのよ!」
「乃梨子、これ以上桂さんを刺激しないで」
「分りませんね。でもだからこそ分りたい、お姉さまの大切な人の一人だからね」

 傍から見れば薔薇のつぼみとは言え上級生相手に、ましてや頭に血が上って手の付けれない状態の相手にこれ程までに啖呵を切れる乃梨子が末恐ろしく見えただろう。だが乃梨子は至って冷静だった。

(私に出来るのはここまで、後は自分でケジメをつけなさいよ)







          ◇   ◇   ◇






「あの、祐巳さまにお取次ぎ願えませんか」
「貴女は確か………」
「どうして貴女がここにいるのよ?ううん、そもそもよくもまぁのこのこと私たちの前に姿を現せるわね」

 一方松組でも緊迫した空気が漂っていた。何故なら松組にとって彼女はいてはいけない存在だから、祐巳に会わせてはいけない存在だから。

「由乃さま………」
「気安く呼ばないでくれる?私もだけど、特に祐巳さんをね」
「う………」

 由乃の言葉一句一句が瞳子の胸へ突き刺さり、松組のクラスメイトたちの射抜くような眼光に心が砕けそうになる。

(分っていたけど当然の報いなのよね)

 だがここで引き下がるわけには行かなかった。こんなにも弱く矮小な自分を助けようとしてくれたクラスメイトに、敢えて汚れ役を引き受けてくれた彼女の思いに報いるためにもケジメをつけないといけないのだ。

「由乃さまたちがお怒りなのは重々承知しています。ですが私にはどうしても祐巳さまに会わないといけないんです」
「祐巳さんを捨てた愛しの祥子お姉さまのために?」
「いえ、私なりにケジメをつけるためです」

 再び瞳子に数多の射抜くような眼光が突き刺さる。挫けそうになる心を必死に奮い立たせ、由乃から目を背けぬよう凛と立つ。

「自分が何言っているのか分っているの?祐巳さんは貴女の事を忘れているのよ」
「勿論です。ですが私には祐巳さまを謀った事を謝罪しないといけないんです、真実を告げる義務があるんです!」

 事件が起こる前に祐巳と祥子の関係がうまくいっていないことを知りながら、敢えて誤解を招くような事をしてきた事。事件の後も真実を告げず自分に都合の良い関係をし、自身の目的のために利用しようとした事。どれをとっても決して許して貰えるとは到底思わない。だがそれでも瞳子は祐巳に謝罪の言葉と真実を告げようとしているのだ。

「それでもし祐巳さんの身に何かあったら貴女、責任取れるの?」
「それでも、このまま何もしないでいることが本当に解決できると?それは逃げじゃないんですか?真実を知った祐巳さまが傷付いた時、何もしてやれない自身の不甲斐無さを思い知らされるのが怖いだけじゃないんですか!」
「っ!?」
「いずれは誰かが真実を告げないといけない事、でしたらその責務と汚れ役を私にさせてください」

 図星を突かれて言葉に詰まる由乃にあくまで沈痛な面持ちで語りかける。瞳子としてはここで反対されても決して引くつもりはない、今この瞬間こそが瞳子にとっての桶狭間なのだ。

「全く、最近の一年は過激な子ばかりね」
「由乃さま?」
「祐巳さんに選ばせましょう。痛みを覚悟の上でも真実を知ることを選ぶか、平穏な現状を選ぶかをね。で、どうする祐巳さん?」
「ゆ、祐巳さま!?」
「き、気付いていたんだ」

 瞳子が後ろを振り返ると苦笑いを浮かべる祐巳が立っていた。

「当たり前でしょう。この子にとっては死角でも私には真正面なんだから。で、どうする?本音言うと私は反対ね。本当なら会わせたくもなかったけど、こうなってしまった以上さすがにね」
「あ、あのどこから聞いていたんですか?」
「由乃さんの怒りを重々承知の上で私に会いたいって辺りだね」
「殆ど最初からじゃないですか!でしたら………」
「はいはい、その辺にする。で、もう一度聞くけど祐巳さんはどうしたい?」

 突然の登場に一瞬我を忘れていたが改めて祐巳を前にすると罪悪感と不安に駆られてしまう。

「祐巳さま………」

 もし祐巳が瞳子の言葉に耳を傾けてくれなかったら、真実を知った祐巳が全てを捨て桂と一緒にいることを選んだら………嫌な結末ばかりが脳裏を過ぎる。だが由乃の言う通り選ぶのは祐巳なのだ。藁にも縋るような思いで祐巳の様子を窺う。

「きっと私にとって知らない方が幸せなんだろうね」
「祐巳さん………」
「でも瞳子ちゃんが私にどうしても話したいことがあって、それを義務と感じているなら私もちゃんと話を聞きたいと思う」
「祐巳さま………」

 祐巳にとって知らない方が幸せであると言う事はこれまで散々由乃の言葉と態度が示していた。だが祐巳は真実から目を背けようとしなかった。

「だって他ならぬ私自身の事でしょう?だったら私は真実を知る義務がある、私はこれ以上真実から目を背けたらいけないと思う。由乃さん、ゴメンね。色々と心配してくれたのに………」
「祐巳さんがそれで良いなら私からは何も言わないよ。ただし私も一緒よ。だって見た所私の知らない所で二人でよろしくやっていたみたいだからね。これ以上私の知らない所で何かがあるのは我慢ならないわ」
「うん、それでいいよ。由乃さんは私のことを心配しているから当然よね。瞳子ちゃんもいいね?」
「はい、由乃さまも聞く権利がおありですからね」
「じゃあ瞳子ちゃん、いつもの所に行こうか」



 そして三人で教室を後にする。



 ふと廊下の窓から見えた空模様は曇り、雨が降りそうで振らないと言った空模様。



 またも雨は無常にも降り注ぐのか?



 それともこのまま快晴へと向かうのか?



 それはまだ誰にも分らなかった………


















 第三話 最終話


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