「色々あったけど乃梨子は薔薇の館での生活に慣れたかしら?」
「う〜ん、多分慣れたかな。でも時折『白薔薇のつぼみ』って呼ばれてもすぐに自分の事と気付けないところがあるのが問題かな」
「でも祐巳さんも四月の初めは『紅薔薇のつぼみ』と呼ばれて思わず祥子さまを必死に探していたみたいよ」

 だがそれも時間の問題であろう。薔薇さまと違ってつぼみやつぼみの妹はその称号で呼ばれることより名前で呼ばれることが多いのだから。今でこそ志摩子の妹になって間もないから皆挙って『白薔薇のつぼみ』と呼んでいるに過ぎないのだから。二学期にもなれば普通に『乃梨子さん』と呼ばれるようになるだろう。

「あ、でもあれはちょっと慣れないかな。紅薔薇さまと黄薔薇さまがそれぞれの妹といちゃついてばかりで溺愛している姿」

 気持ちのすれ違いから始まった別離、自立しようとする者と依存する者との確執、それぞれの悩みを乗り越えた二組は梅雨明けと同時に縒りを戻すことが出来た。が、

「ここだけの話し、ことあるごとに乱れてもいないタイを直すのは見ていてウンザリです」
「放課後だけで12回は最高新記録よね」
「志摩子さん、わざわざ数えていたんですか?」
「だって幸せそうじゃない」

 紅薔薇姉妹も黄薔薇姉妹もいちゃつくどころの話しではない。周りを完全に無視した二人だけの甘ったるい世界を作り上げているのだ。しかもそれが一組だけなら誰かが突っ込んでくれそうなものを、二組も目の前でいちゃついているのだ。なので誰も突っ込む様子はなく、むしろ乃梨子たちの方が異常なのではないのか?という雰囲気が出来ているほどである。

「はぁ、正直言って外様の私にはちょっと耐えれないものがあるよ」
「乃梨子もその内慣れるわよ。それとも乃梨子はああいう関係には憧れたりしないの?」

 ふと祐巳や由乃の位置に自身を置き換えて想像してみる。

『乃梨子、あ〜ん』
『あ〜ん♪』
『乃梨子、タイが曲がっていてよ』
『お姉さま、ありがとうございます』

 考えただけでも寒気立つ。

「ごめん、やっぱり私には無理」
「そうなの?それは残念ね」

 どう考えても自身のキャラに合わない光景である。だが残念がる志摩子を見ていると申し訳ない気持ちになってしまう。

「別に乃梨子が悪いと言うわけではないのよ。祐巳さんたちは祐巳さんたち、私たちは私たちだからね」
「でも………」
「じゃあ乃梨子は今の私たちの付き合い方に不満がある?」
「不満なんて!私は志摩子さんと一緒にいられるならどんな形でも構いません!!」

 乃梨子にとってその問いは愚問である。本人に自覚症状はまだないが、姉に対しての情愛の深さは祐巳たちに負けじと高いのだ。

「だからね、無理に他に合わせようとしなくてもいいの。もしこの先二人の間で『こうありたい』という形があれば自然と関係が変化していくものよ」

 最初は祥子に振り回されながらも必死に置いて行かれない様に祥子の後を追いかけるだけだった祐巳、そんな彼女も最近では祥子にズバズバ言う様になっている。祥子は『反抗期かしら』とぼやいていたが、これも祐巳の成長に伴った二人の関係の変化なのだ。

「でも志摩子さんには幸せになって欲しいし、いつも笑っていて欲しいよ」
「私は今でも十分幸せよ」
「今よりもっと、紅薔薇さまや黄薔薇さまたちよりも幸せになって欲しいんです」

 顔一面に『その為なら何だってする』と書いてそうな乃梨子の必死な顔に思わず苦笑いしてしまう。

「ふふふ、乃梨子は私のことを欲張りと言ったけど、乃梨子も結構欲張りなのね」
「ど、どうして!?」

 優等生の乃梨子にとって今まで誰かを求める事なんて今まで一度もなかった。唯一隠し事のない間柄としてタクヤがいるがあくまで同行の友、そして何より年の差が祖父と孫位離れているのだ。とてもそういう関係にはなれるわけがない。

「自覚していないなら今はそれでいいわ。少なくとも乃梨子は私の傍にいてくれるのでしょう?」
「それは勿論!」

 だから乃梨子はまだ気付いていないのだ。乃梨子が心のどこかで祐巳たちのようになりたいと思っている気持ちに。

「夏休みはどこか二人で遊びに行かない?例えば仏像鑑賞とか」
「し、志摩子さん、からかわないで下さい」
「じゃあ行きたくないの?」
「………行きたいです」

 だけど今はこのままの関係でいいのだ。二人の関係はまだ始まったばかりなのだから。












 あとがき

 えと、SS(ショートストーリー)と言うよりSSS(ショートショートストーリー)ですね。どうも私は紅薔薇姉妹系のSS以外は苦手のようですね。志摩子&乃梨子にチャレンジしたはずがあまり膨らまなかったです。姉妹になりたての初々しい二人を書きたかったはずが、乃梨子一人が初々しい姿でしたね。今度は志摩子が色々と弄ってみたいところです。

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