「その顔、貰い♪」
「ふえっ?」

 友人の声とフラッシュで眠りかけていた意識が目を覚ます。

「もしかして今の寝顔撮ったの?」
「当然でしょ。それより祐巳さん、居眠りもいいけど場所を考えようね」

 元々二人はテスト前の勉強を兼ねてこの図書館に来ていた。だが山百合会のハードな仕事の疲れが取れずにいた祐巳は途中からウトウトし、見事転寝しているところを撮られたのだ。

「それはそうだけど少しは肖像権も考えてよ」

 確かに蔦子は撮影相手の許可なしに撮った写真を公表することは無い。だが毎度毎度情け無いところを撮られ続けられていれば撮影そのものに抵抗感を持つのは仕方ない話だろう。

「だって祐巳さんって隙だらけでしかも美味しい格好しているときが多いんだよ。カメラマンにとってこれほど美味しいキャラはそうそういないね」
「勘弁してよ………」







「それは蔦子さんの言う通りだと思うけどな」
「えぇぇぇぇぇ!」

 図書館の一件は由乃から見ても蔦子と同意見のようだ。

「由乃さんは勝手に撮られる事は何とも思わないの?」
「それは状況にもよるけどさ、でも盗撮紛いな事をしない蔦子さんって蔦子さんらしくない気がするしね」
「既に由乃さんの中では『盗撮=蔦子さん』ってイメージが出来ているのね」

 とは言え祐巳自身その考えは否定できないものがあった。

「う〜ん、祐巳さんがどうしても気になるなら蔦子さんにどうしても止めてくれないな部費を減らすよ、って脅せばいいじゃない」
「さすがにそれはちょっと………」

 権力を傘にモノを言うのは祐巳のポリシーに反する………と言うよりそこまで冷酷にはなれないのだ。かと言ってこのまま泣き寝入りするという選択もしたくない。

「祐巳さんが権力を使わずに蔦子さんにお灸を添えるとしたら………」
「お面を被るとか?」
「………一応聞くけどその心は?」
「以前聞いた話だけど蔦子さんが撮りたいと思えるのは容姿が綺麗だとかスタイルが良いとかじゃなく、ありのままの素顔が撮りたいんだよ。だから素顔を隠すの、さすがに化粧だと校則で制限されるけどお面なら規制は無いはず!」
「………………」

 祥子の妹になってからの祐巳はゆっくりだが着実に未来の紅薔薇さまへと成長を遂げようとしている。事実今では薔薇さまたち以上に下級生から慕われるぐらいである。だが、だがこの天然振りだけはどうあっても直ることは無いのかもしれない。

「と、とりあえず手段の一つとしてその案は置いとくとして、他には何か案は無いの?」
「今のは結構自信があったんだけどなぁ」
「祐巳さん、仮にもリリアンの生徒が仮面を一日中着けた姿って想像できる?そしてそんな子を今度の選挙戦で祐巳さんが投票したいと思う?」
「………できないね」
「解ったら次の案を考える、いいね?」
「は〜い」

 だがいくら考えたところで祐巳に有効な案が思いつくとは思えない。実際由乃自身も色々と考えてはいたが、如何せん蔦子は神出鬼没な上にかなり鋭いのだ。迂闊な行動は手痛いしっぺ返しに遭うのは火を見るより明らかである。

「よし、じゃあこの案で行こう!!」
「え、今度は何を思いついたの?」
「ふふふ、これなら確実に蔦子さんに心理的にダメージを与えることが出来るわ」
「だからどんな案なのよ!?」

 今度はどんなおバカな案を思いついたのか?やけに自信を持って言うからかなり不安になってしまう。だが祐巳は人差し指を左右に曲げる。

「悪いけど由乃さんでも言うことは出来ないわ。『壁に(三奈子の)耳あり、障子に(蔦子さんの)目あり』よ、ここで話して計画がばれたら元も子もないわ」
「そ、そんな馬鹿な事が………」
「ちっ!」
「「えっ!?」」

 微かに聞こえた舌打ちに祐巳と由乃は思わず辺りを見渡すが辺りに人の気配は無い。

「まさか本当にいるとは………」
「由乃さん、時折ここって本当にお嬢様学校?って思うのは私だけかな?」
「………黙秘権は有りかな?」
「………………………」
「………………………」
「「はぁーーーーー」」






 数日後、気を取り直した祐巳はカメラを片手に蔦子を尾行していた。

(ふふふふふ、確か蔦子さんは写真を撮るのは好きでも撮られる方は嫌いのはず)

 写真を撮られるのが苦手な蔦子に日頃撮られてばっかりの人間に撮られるという最大の屈辱を、そしてそのネタを新聞部に提供して全校生徒に知らしめるというのが祐巳の計画である。

(勿論フラッシュは切っているからこっそり撮れば蔦子さんに気付かれる心配も無いはず)

 そして蔦子が撮影をしているシーン、先生と話しをしているシーン、そして蔦子の妹候補とも言える笙子を愛でている姿、とにかく手当たり次第蔦子を撮り続けた。

(これだけ撮れば十分よね、後はカメラ屋に行って現像してもらおうっと)

 



 だがいざ写真を現像してもらってみればちょうど蔦子さんが顔を背ける瞬間だったのでブレが酷かったりピンぼけが酷かったり、フィルムが真っ黒だったり………etc

「これじゃあネタとして使えないよ」
「ふふふ、祐巳さんお困りのようね」
「つ、蔦子さん!?」

 いつからそこにいたのか、蔦子と笙子は不敵な笑みを浮かべながら祐巳を取り囲むように祐巳の左右それぞれに立っていた。

「祐巳さま、写真を撮る際にちゃんとオートフォーカスとマニュアルフォーカスの設定の切り替えをちゃんとしていますか?」
「え、オートフォーカス?マニュアルフォーカス?」
「これなんか絞りを開き過ぎじゃない。これじゃあフィルムの無駄遣いよね」
「え、え、え、絞り?」

 聞きなれない専門用語に戸惑う祐巳に更に二人は追い討ちをかけていく。

「仮にも蔦子さまの親友がこの程度の写真で満足なんですか?」
「満足って言われても………」
「祐巳さん、きっかけはどうであれカメラを手にした以上、祥子さまを自ら撮って見たいと思うでしょ?祥子さまの妹として誰よりも彼女の魅力を引き出せると言うことを証明したいでしょ?だったらもうちょっと腕を鍛えないとだめじゃない」
「そ、そうだよね。どうせならお姉さまの写真を撮るべきだよね、うん」

 話しがおかしな方へ向かっているのだが祐巳はその事に気付くこともなく、ただ流されていくだけである。

「だったら一度ちゃんと写真部の門を叩くべきよ。今なら私たちが一つ一つ丁寧に教えてあげるわ」
「本当!?蔦子さんたちが直接教えてくれるなら安心できるよ。これから先、色々と宜しくね」

 そしてその場のノリで写真部の入部届けにサインし、明日からのレッスンに胸を躍らせながら帰って行く。

「………やりましたわね、蔦子さま」

 そして祐巳が去る後姿を見ながら、嬉しそうに語り始める。

「ええ、祐巳さんもまさか私が祐巳さんの盗撮のことを知ってワザと失敗するような状況に誘い込んだことに気付かないでしょうし、これで計画は成功のようね。これで………」

「「紅薔薇のつぼみの入部で部費アップ間違いなしね(ないですね)♪」」

 祐巳が二人の陰謀に気付いたときには既に祥子の姉馬鹿のお陰で写真部の部費が倍近くに上がった後だったがそれはまたの別の話である。






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