「ねぇ祐巳ちゃん、祐巳ちゃんの理想の結婚相手ってどんな人なの?」

 全ては江利子のこの一言で始まったのだ。

「い、いきなり唐突な質問ですね」
「好きな人ができたからか、他の子たちの理想の相手とかが気になってね。実際のところ『こういう男性と添い遂げたい』とか無いの?」
「添い遂げたい相手と言われても………」

 まだ十代の祐巳に将来の事はおろか、添い遂げたいと思える男性像など考えた事は無かった。

「ちょっと黄薔薇さま、今の問い掛けはセクシュアル・ハラスメントじゃないのですか!!」

 だが祐巳が言葉を詰まらせた事を深読みし過ぎた祥子には江利子の発言をセクハラと受け取ったようだ。

「さすが祥子、セクハラと言う俗称じゃなく正式名称で答えるとは」
「茶化さないでください!!」
「でも祥子も興味ない?妹の祐巳ちゃんの理想の男性像がどんな人なのか」
「興味ありませんわ、そもそも祐巳と添い遂げるのはこの私………」

 最後の方はよく聞き取れなかったが、言わんとしている事は祐巳を除く全員が承知済みである。そして肝心の祐巳が理解して無い事をいい事に江利子が祐巳に抱きつく。

「そっか〜、祥子は祐巳ちゃんの将来は興味ないんだ。祥子は卒業後の妹の事なんてどうでもいいんだ。可哀想な祐巳ちゃん」
「そ、そうなんですか、お姉さま?」
「そ、そんなことありません!!それとどさくさに紛れて祐巳に抱きつかないでください」
「はいはい、離れればいいんでしょ。でも祥子、貴女がどんなに祐巳ちゃんを可愛がろうと女同士である以上決して祐巳ちゃんと添い遂げる事はできないのよ。姉馬鹿も程々にしないと祐巳ちゃんと婚期が遠のいってしまうわよ」
「うっ!」

 『女同士である以上決して祐巳ちゃんと添い遂げる事はできないのよ』この言葉は思いのほか祥子にはキツイ言葉だった。いかに祥子が男嫌いで且つ祐巳を溺愛しようと、世間一般では同性間での結婚は認められておらず、社会的に白い目で晒されるのは安易に想像できる。そしてこれが祥子一人に留まればまだいいが、間違いなくその矛先は祐巳にも及ぶだろう。そうなれば祐巳の心を痛めてしまうことになってしまう。それは祥子には堪らなく辛い事である。

「大事なのはお互いの気持ちと言っても世間の目はどうしようもないからね」

 さて、だったらどうする?江利子にそんな瞳で見つめられ祥子だけでなくこの場にいる多くのものが押し黙ってしまう。

「あ、あの皆さん、どうしてそこで黙るんですか?」
「どうやらこの中でノーマルなのは私と祐巳ちゃんだけのようね」

(いっそのこと祐巳を連れて二人だけの世界を求めて愛の逃避行でもしようかしら?)
(栞の時の二の舞を踏まないよう、祥子や蓉子から祐巳ちゃんを奪った後の事もキチンと考えないとね。どうすれば世間的にも問題なく祐巳ちゃんと一緒になれるかな)
(祥子のことだからどうせ聖のように愛の逃避行とかしそうだから早めに手を打たないいけないわね。だとするなら協力者の振りをするのが得策ね)
(祐巳さんも私と一緒に神にお仕えするシスターになれば俗世のことなど気にしなくなるかも………)
(どうやったって世間体をどうにかするなんて出来るわけが無い。だったら祥子様と白薔薇さまの意識が逸れている間に祐巳さんと既成事実を作れば無問題!!)
(私は由乃さえいれば他は何だって構わないわ。由乃と共にいる日々こそ私の楽園、世間体なんてきにしないわ)

 若干一命だけ目的が違うが方向性が同じなので五十歩百歩だろう。

「そういえば紅薔薇さまは大学で法律の勉強をするみたいだけどそこで得た知識は将来どのように活用するのかしら?」

(将来も何も江利子には私が『気がついたらそれに携わった仕事に就いていた』が理想であることは伝えていたはず………)

 何も蓉子は弁護士や検事のような仕事に就きたいから法学部を受けるわけではない。好きなことを学んでいてそれに携わる仕事がしたかっただけなのだ。

「それは前も………はっ!?」

(よくよく考えたら私はこれから法律の勉強をするのよ。その行き着く先に国会議員になるのも一つの手、そして同性間の結婚を認める法律の改正をすれば………)

「祥子、安心しなさい。いずれ私が社民党の党首………いいえ、総理大臣になった暁には同性間による結婚を認めるよう法律を改正して見せるわ」
「お姉さま、私の為にそこまでしてくれるなんて………」
「いいのよ祥子、これも可愛い妹の為よ」
「お姉さま、私も小笠原グループ及び関連グループを率いてお姉さまを支持しますわ」
「そうと決まれば早速政治家になるための勉強をしないと………祥子も付き合ってくれるわね?」
「ええ、もちろんですわ」

 言うが早いか、蓉子は祥子を連れて薔薇の館を後にする。本来『先手必勝』は由乃の座右の銘なのだが今回ばかりは紅薔薇姉妹にこそ相応しい言葉だろう。

「あらあら早くも蓉子と祥子は行動に移ったようね。一見無謀にも見える策だけどあの二人ならやりかねないわね」

(確かにね、でも蓉子の策では壮大過ぎていくらなんでも先が長い。蓉子が法律を改正するのを待っている間に他の子に盗られたら元も子もないし、そもそもそこまで待っていられるほど私も気は長くないからね。他に方法はないものか………)

「世間体云々は何も同性同士の結婚を認めるだけが方法じゃないのにね。時には搦め手も有効だと思うんだけどね。どう思う、白薔薇さま?」

(搦め手………つまり祐巳ちゃんと直接結ばれる方法の模索だけが全てじゃないってことか。でも世間体を気にせず祐巳ちゃんの傍にいようと思ったら蓉子のように祐巳ちゃんと結婚し、家族になるという策が一番良い方法だよね。ん?待てよ、家族になるだけなら何も祐巳ちゃんと結婚するだけが手じゃない!?)

「そう言えば祐巳ちゃん、確か祐麒は誰かと付き合っているわけじゃないよね」
「はい、確かそう言った浮いた話はないですよ。一応誤解が無いように言っておきますが柏木さんの同類でもないですよ」
「うん、それを聞いて安心した♪じゃあ私はちょっと用事を思い出したからお先に失礼するね」

(何も祐巳ちゃんと結婚するだけが一緒になる方法じゃあない。祐麒と形だけでも結婚してしまえば世間的には私と祐巳ちゃんは義姉妹、一緒に暮らしても不自然じゃないし、あの祐巳ちゃん『義姉さま』と呼ぶのも倒錯的でイイ♪)

 今度は聖がスキップしながら薔薇の館を後にする。その顔は面白いぐらい考えていることが分かる表情である。

「白薔薇さまも結構分かりやすいよね。それより何も始める前に三人が帰っちゃったし、私たちも帰ろうか」
「そうですね、じゃあ私はこの書類を職員室に届けてきますから皆さんは先に上がってください」
「祐巳ちゃん、ありがとうね。じゃあ祐巳ちゃんのお言葉に甘えて先に帰ろうか」

 そして黄薔薇ファミリーと志摩子の四人も薔薇の館を後にする。が、

「ごきげんよう、黄薔薇さま。今日はお一人ですか?」
「ええ、先ほどまで妹たちと一緒に居たんだけどみんな用事ができてしまったのよ」




(最大の敵である祥子さまや白薔薇さまの居ない今こそ祐巳さんをゲットするチャンス!今の隙に祐巳さんと既成事実を作るまでよ!!)

 途中までは一緒に帰っていた由乃だっただが隙を見て抜け出し、職員室へ祐巳の後追いかけていた。

(あの後姿は祐巳さんね)

 独特のツインテールを見かけて声をかけようとしたその時だった。

「由乃〜〜〜、私を捨てないで〜〜〜〜〜」
「げっ!令ちゃん」
「私に『世界で一番、令ちゃんが好きだよ』って言ったのは嘘だったの〜〜〜」

 令が黄泉の亡者のように由乃にしがみ付いてくる。

「あれは嘘じゃないけど………」
「じゃあどうして祐巳ちゃんの後を追いかけるのよ!?」

 『好き』と『愛している』、ニュアンスは似ていても全く同じではない。今の令にその事を説明するのは難しいし、納得してもらえれるとも思えない。しかも、

「令さま、由乃さんとお幸せに」
「し、志摩子さん!?貴女抜け駆けする気!!」

 由乃が令に邪魔されている間に志摩子が追いついてきたのだ。

「はて、何のことかしら。私はクラスメイトに用があるだけですわ。それより令さま、後はお任せしますね」
「うん、任せてよ」
「ちょっと令ちゃん、そんな事任されないでよ!!」
「ではごきげんよう」

 令に由乃の足止めをお願いし、志摩子は職員室に足を入れる。多くのライバルを押しのけ遂に目的の彼女をその手にする為に。

「祐巳さん、私と一緒に__」
「じゃあ福沢さん、この間一緒に居た花寺の生徒とお付き合いしてたんだ」
「え、ええ。でもみんなには内緒ですよ。健介君との事はまだ誰にも話してないんですから」

 そう、江利子はこうも言っていたのだ。『この中でノーマルなのは私と祐巳ちゃんだけなのようね』と

(どこか人気の無い田舎で祐巳さんと共に神にお使えする日々………夢のまた夢なのね………)

 祐巳に既に交際相手が居ることに気付き、これまでの苦労が無駄であったと他の面子が気付くのはまだ先の話である。

「祐巳ちゃんのことでみんながあれやこれや暴走している姿を見るのは楽しかったけどね」

 ただし若干一名を除いて、である。








 あとがき

 現在同性結婚を認めている国は主に七ヶ国。そのうちフランスとオランダは全面的に同性結婚を認めており、ベルギー・スウェーデン・デンマーク・ベルギー・ドイツの五カ国は結婚そのものは認めていますが養子縁組は認めていません。一応アメリカでもバーモント州が辛うじて認めているもののブッシュ政権そのものは同性結婚を禁ずる憲法改正するつもりなのでアメリカは除外しました。
 とまぁ、一体何『へー』貰えるか分からない雑学を手にしたか分かりませんが今回の作品はいかがでしょうか?とは言え多くのマリみてSS作家が一度は書くであろう子狸争奪戦、落ちとしてはイマイチな締めになってしまいましたね(^。^;)
でも実際同性同士である以上マリみてキャラ同志が結ばれようと思ったらどうするのか?それをテーマに作ってみましたが由乃に至っては先のことなど全くと言っていいほど考えてませんでしたね(苦笑)。ちなみに読者の皆様ならどのキャラの行動を支持しますか?


 ではもしよければ下記ファームかメール又は掲示板に感想を頂けたら幸いです。ではでは〜







名前(匿名でも構いません)  
Eメール(匿名でも構いません)
URL(HPをお持ちであれば) 

この作品の感想を5段階評価で表すとしたらどのくらいですか?


メッセージがあればどうぞ










inserted by FC2 system