「はぁ………」
「どうしたの可南子ちゃん?」
「何でもないです」

 最近可南子ちゃんの様子がおかしい。私の妹になってから暫らくは瞳子ちゃんと祐巳さんを賭けて楽しそうにじゃれ合いをしていたのに、最近ではそのじゃれ合いすら無くなっているのだ。

「はい、瞳子。昨日私の家に物理の教科書忘れてたよ。普段私のことだらしないって言うけど瞳子だってどこか抜けているんじゃないの?」
「うっ!お姉さまにそんな風に言われるなんて、松平瞳子一生の不覚ですわ」
「皮肉を言う前に言うことがあるでしょ?」
「あ、ありがとうございます」

 瞳子ちゃんは瞳子ちゃんでライバルが何もしなければ遠慮なく祐巳さんに甘える毎日。祐巳さんもそんな瞳子ちゃんが可愛くて仕方ないのだろう。最近では祥子さまより瞳子ちゃんといる時間の方が長いのだ。

「お姉さま、明日は休日ですし久しぶりにお泊りに行ってもいいですか?」
「ええ、乃梨子なら大歓迎よ。帰ったら腕に縒りをかけて夕食を作るわ」
「それは楽しみだけど銀杏尽くしは勘弁ですよ」
「あら、それは残念だわ」

 志摩子さんの方は………完全に二人だけの世界ね。白薔薇姉妹は二人しかいないから余計に二人だけの世界に入りがちなのよね。やっぱり自分の妹の悩みを解決するのは姉の役目よね?

「ねぇ、可南子ちゃん。明日暇かな?」






 こんなにも貴女を思っているのに






「さて、昨日はうまくいったのかしら?」

 先日私は可愛い妹のために一肌脱いだのだ。今日は久しぶりに可南子ちゃんの笑顔が見れるのだと楽しみにしているのだ。

「あそこにいるのは紅薔薇姉妹と可南子ちゃんね。じゃあ早速昨日の土産話でも聞こうっと♪」

 瞳子ちゃんもいるとは言え早速祐巳さんと一緒に登校する辺り、先日は成功したようね。あれ、でも表情が硬いな。

「ごきげんよう、お三方」
「ごきげん………っ!」
「え!?待ってよ、可南子ちゃん!?」

 私の顔を見るなり逃げるように立ち去るなんて………もしかして昨日うまくいかなかったの!?

「祐巳さん、昨日可南子ちゃんに何を………」
「由乃さんこそこんな所で何をしているの!」

 祐巳さんに問い質そうとして逆に声を荒げれてしまう。聞きたいのはむしろこっちの方なのに。

「可南子ちゃん泣いていたよ。可南子ちゃんのお姉さまならまず先にする事があるでしょ?」
「解ってるわよ!」

 祐巳さんに言われるまでも無い、祐巳さんを問い質すのは後にして今は可南子ちゃんの後を追おう。

「どうしてこんな事になってしまったんだろう」

 可南子ちゃんのここ最近の様子がおかしいのは解っていた事だ。だからこそ私は可南子ちゃんに内緒で祐巳さんとのデートをセッティングしたのだ。これまでも色々と嗾け、成功を収めてきたと言うのに………



―――可南子ちゃん、私の妹になりさい。

 確かあれは瞳子ちゃんが祐巳さんの妹になった時だった。口では色々言ってはいても、可南子ちゃんが祐巳さんの事を慕っていたのは。誰の目にも明らかだった。

―――由乃さま、急に何を………

 瞳子ちゃんが祐巳さんの妹になったことで傷ついた可南子ちゃんを放って置けなくて………

―――別に私を祐巳さんの代わりにって訳じゃないわ。ただ可南子ちゃんはこのまま瞳子ちゃんに負けっ放しのままで悔しくないの?

 最近可南子ちゃんのことを気にかけていた私は少し格好をつけてみた。

―――個人的には可南子ちゃんには頑張って欲しいな。だから私を利用しなさい。私の妹になれば今後も堂々と薔薇の館に居座れる、黄薔薇のつぼみの妹として紅薔薇のつぼみの妹と張り合えれる………悪くない条件じゃないかしら?

 後で令ちゃんにもうちょっとまともな誘い方ができないのかと言われたけど、可南子ちゃんの性格を考えたらこれが一番の案だと今でも思う。

―――私をあなたの妹にして下さい。

 あの時可南子ちゃんは私の申し出を受け、晴れて黄薔薇のつぼみの妹となったのだ。それから私は何かと可南子ちゃんが祐巳さんと一緒にいられるように気を利かせてきたのだ。その日々は例え瞳子ちゃんがいたとは言え、可南子ちゃんにとって充実したものだと思う。

「可南子ちゃん、一体何があったの?私には言えない事なの?」





 温室にいる可南子ちゃんをようやく見つけることができた私は可南子ちゃんの肩を掴み振り向かせる。

「お姉さまには関係の無いことです、放って置いて下さい!」
「関係ないって、姉が妹を気に掛けちゃいけないって言うの?」
「私の気持ちも知らないで姉面しないで下さい!」

 私が可南子ちゃんの気持ちを考えてないですって?

「私がいつ可南子ちゃんの気持ちを無視したって言うのよ?私は可南子ちゃんの姉として………」
「だったら、だったらどうして昨日来てくれなかったですか!!」
「え?」

 可南子ちゃんを不快にした原因は祐巳さんじゃなく私なの?

「初めてお姉さまからデートの誘いが貰えたから一生懸命御粧したのに、待ち合わせ場所には来てくれなかったじゃないですか!」
「ご、ごめん。まさか可南子ちゃんが私とのデートを楽しみにしてたなんて思いもしなくて」
「私はお姉さまにとって何なんですか?瞳子への当て馬か何かですか?」

 あぁ、ようやく解った気がした。ようはまた暴走し過ぎてちゃんと見えてなかったんだ。

「私は何時まで『可南子ちゃん』のままなんですか!!」

 私から姉妹を申し込んでおきながら何時までも『可南子ちゃん』と呼んでいたら本当に彼女のことを妹だと思っているのか不安になるには無理も無い話しよね。

「私は本当にお姉さまの妹なんです___」
「誰が何と言おうと貴女は私の妹よ、『可南子』」

 泣き叫ぶ可南子を胸に抱き、私は改めて実感した。私はこんな風に生の感情をぶつけてくる可南子に惹かれたのだと。

「可南子も気付いていると思うけど私って結構暴走しがちなのよね。だから今回も可南子のことを思えばこその失態なの。だからもしかしたら今回のようなことがまたあるかもしれない。けど___」

 そう、この欠点が原因で何度も令ちゃんと衝突を繰り返してきたから多分慢性的な病気なんだろう。でもその度に紆余曲折を繰り返し私は乗り越えてきた。だからこそ言える、

「私は何があっても可南子の姉、貴女の事を見放したりしないわ」

 この日、私は可南子と本当の意味で姉妹になれた気がした………










 あ と が き

 どうも、久しぶりの短編は如何だったでしょうか?今回のコンセプトである『妹への接し方を誤る由乃』という点はちゃんと描けていたでしょうか?
 由乃は人の感情に機敏な割りに、お得意のいつもイケイケな性格上空回りしてしまう所があります。そんな彼女が妹を持てばこのような過ちを犯すのは無いでしょうか?そう思って今回この作品を執筆しました。

 でも何気に黄薔薇を描いた短編ってこれが初なんですよね。その初作品が暴走ネタ………次を書くとしてもまた暴走ネタになるだろうな、と考えるとやっぱり由乃は暴走して何ぼのものですよね?(マテ


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