はじめに

 この作品は暴力的なシーンや人の死を直接的ではないにしろ、描いたダーク系SSです。なので暗い話や救われない話に嫌悪感のある人はご覧にならないことをお勧めします。














 お祖母さまのこと、そして瞳子ちゃんの存在がきっかけで祐巳とすれ違いをしてしまった。

「祥子お姉さま。お待たせしました」
「………そういうことですか」

 いくらお祖母さまの身が予断を許さない状況だったとは言え、あまりにも祐巳を蔑ろにし、祐巳が心を痛めている事に気づけなかった。その代償はあまりにも大きかった。

「聖さま!」
「祐巳………」

 呼べばいつも傍にいた祐巳が私の声に耳も向けず聖さまに泣きつき、私を拒絶する。

「お世話おかけします」

 私と祐巳の間に決して埋めることの出来ない溝ができてしまった事を今になって気付かされてしまったのだ。これ以上祐巳を苦しめてしまう事が辛くて………いいえ、祐巳に嫌われたという現実を突き付けられるのが辛くて逃げるようにその場を後にしてしまった。

「祥子お姉さま、よろしいのですか?」
「祐巳には聖さまがいるわ。それより今はお祖母さまの事が心配だわ」

 結局私はお祖母さまの看病を建前に祐巳から逃げたのだ。だけど最初はお祖母さまの看病で気が紛れていたけど、お祖母さまが亡くなられた時全てを失った事に否応なしにも気付かされてしまう。

「お祖母さまーーー!!」

 大好きだったお祖母さまの死、

「祐巳ーーーーー!!」

 そして呼んでも二度と返事が返ってこない最愛の妹を失ったことに、今度こそ目を背けれなくなった私は重荷に耐え切れず塞ぎ込んでしまったのだ。

「祥子、待ってなさい。今祐巳ちゃんを連れてくるわ」

 そんな私を見かねたお姉さまが私の元に祐巳を連れてきてくれた。

「あなたが好きなの」
「私も、お姉さまのこと大好きです」

 嬉しかった、あれだけ酷いことをした私のことを今も好きと言ってくれた事が。けど抱きしめた祐巳の首下を見た時、私の中で酷くどす黒い感情が芽生えてしまう。

「祐巳、どうしてロザリオを付けてくれないの?」
「え、それは………」

 私と祐巳を繋げる絆の証であるロザリオ、あの雨の時ですら令のように投げつけられなかったロザリオが祐巳の胸元にないのだ。

「ねぇ、本当は私のような自分勝手なお姉さまの妹なんてなりたくないの!?」
「お姉さま、落ち着いてください」
「私には、私には祐巳しかないの!!祐巳に嫌われたら私は、私は………!!」

 結局祐巳はお姉さまに呼ばれたから嫌々来たのではないのか?そんな嫌な事を考えてしまう。

「私はお姉さまのことが本当に大好きです、今でも小笠原祥子さまの妹です。ただ………」
「ただ?」
「私にも妹が出来たのです。だからロザリオは私の妹の元に………」
「そ、そうなの。ごめんなさい、早とちりしてしまって………」
「い、いえ。紛らわしい事をしてしまった私に落ち度があっただけです。でも本当に信じてください、私はお姉さまの事が好きだという事に嘘偽りがない事を」

 私はその言葉を信じる事にした。そして学校に戻った私を迎えたのは令を始めとする薔薇の館のみんな、そして祐巳の妹だった。

「ご、ごきげんよう。紅薔薇さま」
「ごきげんよう、あなたが祐巳の妹ね」
「はい、不束者ですがよろしくお願いします」

 彼女は私にも懐いてくれ、仕事も出来る人間だった。だから最初はうまくいくと思った。でも………

「祐巳、今度の日曜………」
「お姉さま、今度の休みちゃんと空けていますか?」

 祐巳をデートに誘おうとした時だった。

「あれ?何かあったっけ?」
「もうっ!!デートの約束を忘れるなんてお姉さまは私とデートするのが楽しみじゃないのですか!?」
「じょ、冗談だよ。ちゃんと空けているし、覚えていたよ」
「その割にずいぶんと自信無さ気ですね」
「今度の日曜はあなたとデート、これで文句無いよね。あ、そういえばお姉さま、何か言いかけてませんでした?」
「い、いえ。何でもないわ」

 こんな事がどれだけ続いた事か………最初は志摩子や乃梨子ちゃんのような初々しさが見ていて楽しかったが、最近は彼女が祐巳の傍にいるのが歯痒く思えてしまうのだ。

「祥子、怖い顔しない。祥子だって祐巳ちゃんを妹にした時は蓉子さまの事そっちのけで祐巳ちゃんにべったりだったじゃない」
「別に怖い顔なんてしてないわ。それにお姉さまのことをそっちのけにしたことなんて………」

 確かに令の考えているように私は孫であるはずの彼女に嫉妬している。私から祐巳と過ごす時間を奪った彼女に………

「大体元を糺せば祥子が祐巳ちゃんとすれ違ったりするから祐巳ちゃんがほかの子に目がいったんだよ。まぁそうでもなければ祥子同様に潰れてしまっていただろうから仕方ないといえば仕方ない話だけどね」
「そんな事、いまさら言う事ではないでしょ」

 そう、それが一番の問題だった。彼女が祐巳の妹になったのはあのすれ違いの一件がきっかけなのだ。私と祐巳がすれ違っている内に横から泥棒猫のように私から祐巳を奪った張本人、あの子さえいなければ………

「まぁ祥子や祐巳ちゃんと違って陸上部に入っている分一緒にいられる時間は祥子の方が多いんじゃないの?」
「そうね、あの子が祐巳の傍にいない時なら祐巳と一緒にいられるのよね」
「う、うん。まぁそういう感じだね。あぁ〜あ、私も由乃に妹が出来たらそんな寂しい思いをするのかな?」

 ふふふ、なんだ、考えてみれば簡単な事よね。あの子さえいなければ良いだけなのだから。


「___ちゃん」
「あれ、紅薔薇さまじゃないですか。こんな所で何をしているのでしょうか?」

 日曜日、祐巳の待つデートの待ち合わせ場所に向かう彼女を呼び止める。

「ちょっとあなたに用があってね」
「私に、ですか?でもこれからお姉さまとデートなので手短にしてもらえないでしょうか?」
「すぐに済むかどうかはあなた次第ね。ついてきなさい」

 そして人気の無い場所へ、いえ、SPの人たちがいるから人気はあるわね。彼らのいる場所へ連れて行き、

「犯ってしまいなさい」
「え………きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あなたがいけないのよ、私から祐巳を奪おうとするから」
「紅薔薇さま、助けて下さい!!」

 彼女の助けを請う声を無視して私はその場を後にする。

「お嬢様、本当によろしいのですね?」
「くどいわ、それより彼女の親の方は片がついたの?」
「ええ、言われた通りでっち上げの罪状を口実に社会的立場を剥奪しました」
「そう、それでいいのよ」

 迎えに来た車の中で予定通り事が運んでいる事に満足する。

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 あれだけ犯されボロ雑巾のようになってしまえば二度と祐巳の前に現れようとしないでしょう。それに親が職を失った今、祐巳の前はおろかこの町からも姿を消すでしょうね。

「多分、祐巳は彼女がいなくなったことを知ったら寂しがるでしょうね」

 だがそれこそ望むところである。傷付いた祐巳が頼れるのは私だけ、祐巳が甘えてくるのは私だけになる。

「祐巳、傷付いたあなた心を私が癒してあげるわ」








 ――― 3 YEARS AFTER ―――

「ただいま、祐巳」
「お帰りなさい、お姉さま」

 あれから三年、卒業した私たちは一緒に暮らしている。

「明日は祐麒と両親の命日………あれから二年も経つんですね」
「祐巳………」
「あ、ごめんなさい。ついしんみりしちゃって」
「いいのよ、辛いなら無理なくても。でもこれだけは解って、私だけは決して祐巳の傍を離れないと………」
「お姉さまっ!!」

 この三年で祐巳は多くのもを失った。妹を、友を、そして家族さえも………。最初はうつ病になった祐巳だけど、今は大分落ち着いて普通に生活が出来るまで回復した。

「お姉さま、お姉さまだけは私の前から消えないでください!!」
「ええ、勿論よ」

 ただ一つ問題があるとしたら祐巳には私しかいないということ、私以外の人と交流を持とうとしなくなったという事。

「私たちはいつまでも一緒よ」

 だがそれで十分である。私の傍に祐巳がいて、祐巳の傍に私がいる。それ以上何が必要だというのだろうか。この楽園のような生活を守るためなら私は鬼でも悪魔にでもなろう。

「お姉さま」
「祐巳」

 だからマリア様、二度と私たちの邪魔をしないでください………















 あとがき

 もし、レイニブルーで祐巳に聖さまと弓子の存在が無い状態で祐巳が立ち直るとしたらどうすれば良いでしょうか?祥子を信じたいと思う反面瞳子の存在と何度もデートをドタキャンされ続けた事で祥子の事が信じれなくなっている………そして由乃の慰めの言葉も届かなくなった以上、祥子との距離を見直すのが無難な線でしょう。そして一番手っ取り早いのがこのSSであるように祐巳が妹を持つ事です。
 もし祐巳が妹を持てば祥子の事で必要以上に一喜一憂する事も無くなり、もっと冷静になれるはずです。ですがそれは見方を変えればただの逃げです。『好きだから』ただそれだけで相手を信じれず、そして祥子と面と向かおうとせず妹を作りそちらに気持ちを向けるのは逃げといわれても仕方ないでしょう。
 勿論あの一件に祐巳だけが非があるわけではありません。ですが逃げてしまった以上何らかの代償がつくのは仕方ない事でしょう。そして祐巳が背負う事になった代償、それを少し誇張して描いたのが本作です。

 まぁなんだかんだ言ったところでダーク系SSである以上見ていて楽しいお話ではないですよね。作者であるはずの私自身書いててちょっと凹むくらいですから(苦笑)。でも何故だろう?凹みつつもいつもより執筆が捗っているのは?w

追伸
 作中に全てを失った祐巳が自閉症になったと書いていましたが、自閉症とは自分の殻に閉じこもる症状ではなく発達障害の一種です。
なので自閉症ではなくうつ病と訂正しました。
 読者の方々に誤解を招く内容を書いた事、そして自閉症患者やその関係者に不快な思いをさせたことを深くお詫び申し上げます。





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