「うぅ〜、寒っ」

 季節上朝の目覚めて暫しの間はいつもの事ながら寒さから体が縮こまってしまう。

「祐麒〜、何か暖かい飲み物用意してくれない?」

 そして不本意ではあるが姉よりもしっかりしている弟をついつい使ってしまうのもいつものことである。だが

「じゃあココアでいいかな、祐巳ちゃん?」
「う、ココアで………って、柏木さん!?」
「おはよう、祐巳ちゃん」

 そこに立っていたのは弟の祐麒ではなく、花寺の元生徒会長である柏木優だった。しかもエプロンを身に纏い、福沢家の台所で朝食の用意をしている姿はまるで専業主婦………もとい専業主夫のようである。

「どうしてこんな朝早くに柏木さんがここにいるんですか!?」
「それは勿論愛するユキチの為に朝食を振る舞いに来たに決まっているじゃないか。あ、心配しなくてもお義父さんやお義母さんは既に朝食を振舞っているから安心していいよ」
「だから___」

 誰も両親の朝食の事なんて心配していないし、両親の事を『お義父さん』『お義母さん』と呼んでいる事とか突っ込み所が満載だったが、寸前の所で言うのをやめてしまう。

『自分本位で、そのこと本人はまるで自覚がないの。他人の気持ち全然理解できないし、それ以前に考えようとしない』

 かつてまだ姉妹でなかった頃に祥子が言っていた言葉が身に沁みる思いだった。

「そうですよね、柏木さんに何言っても仕方ないですよね」
「?とりあえずご注文のココアだよ」
「じゃあありがたく頂きますね」
「さて、そろそろ愛しのユキチを起こすとしようかな。やっぱり朝の目覚めは王子様のキスで___」
「って、待てぇーーーー!!」

 全言撤回、やっぱり納得できずに止めに入ってしまう。

「柏木さんの性癖がどうであれ、祐麒はノーマルなんです。祐麒の気持ちを無視して付き纏わないで下さい!!」
「祐巳ちゃんはそれでいいの?」
「へ?」
「僕がユキチと結ばれなかったら親同士の決め事に従ってさっちゃんと結婚する事になる。でもユキチとの事を認めてくれればさっちゃんの事から一切手を引いてもいいと思っている。何だったら柏木の名において祐巳ちゃんとさっちゃんの事を取り持ってあげようか?」

(お姉さまとの関係を取り持ってくれる………つまりお姉さまと結婚できる!?)

 柏木の声がまるで悪魔の囁きの様に祐巳の心に木霊する。祐巳にとって柏木が祥子から手を引いてくれるだけでもありがたいのに、その上祥子との関係を取り持ってくれるとなればこれほど美味しい話はない。

(だ、駄目よ祐巳。私は祐麒のお姉ちゃんなのよ。自分の為に祐麒を生贄にするなんて出来るわけないわ)

「ちなみにさっちゃんはああ見えて伯父さんやお爺さん達には自分の気持ちを言えない所があるからこのまま行けば僕とさっちゃんが結婚するのは当然の成り行きだね。でももし僕に他の何もかもを捨ててでも添い遂げたいと思う相手がいれば………もう言うまでもないよね」

 姉としての理性と女として(?)の欲望が天秤の上で大きく揺れ動いていく。そしてついに、

「不束な弟ですがよろしくお願いします」
「うん、じゃあ祐巳ちゃんもさっちゃんの事をよろしく頼むよ」

 『祐巳の裏切り者ーーーーーー!!』ふと叫び声が聞こえたが敢えて聞き流し弟を悪魔に売り渡してしまう。

「こ、これでお姉さまと………」




………………………………………………………



………………………………………



……………………





「って、夢を見たんだけど私って最低だよね」

 とある休日、福沢家にお邪魔していた由乃と志摩子は祐巳から先ほどの悪夢について相談を受けていた。

「そ、そんな事ないわ。所詮夢の事なんだから多少暴走しても仕方ないわ」
「でも夢とは言え自分の為だけに実の弟を売ってしまったのよ。姉としてやってはいけない事だよ」

 悪夢を見て以来祐麒を見る度に自己嫌悪と申し訳なさで一杯になってしまう。しかもこれが何の脈略もない荒唐無稽な夢ならよかったのだが、祐巳自身現実でも『お姉さまと一つに慣れるなら………』と思える節があるから始末が悪いのだ。

「夢の事を一々気にしていても仕方ないわ。現実に祐麒さんを柏木さんに売り渡したわけじゃないんだからそこまで気にする事はないわ。由乃さんもそう思うよね?」
「うーん、私はそうは思わないかな。むしろその反対」
「「え?」」

 志摩子のように慰めの言葉をかけるでもなければ祐巳の歪んだ思いを否定するでもない。由乃はむしろ賛同すると言っているのだ。

「だってそれだけ祥子さまの事が好きなんでしょ。だったらその為に弟を差し出すぐらいの意気込みがあったて良いじゃない」
「で、でもその為に祐麒さんを差し出すなんて………」
「何も祐麒さんをとって食おうと言うわけじゃないんだから問題ないわよ。むしろその反対で大事に可愛がって貰えるって」

 もっとも別の意味で食われてしまうとも思ったがそこは敢えて口にはしなかった。

「そうよね、柏木さんは祐麒のことが大好きなんだから酷い事をするわけないよね」
「ゆ、祐巳さん?」
「そうそう、もし現実にこういうことがあれば遠慮せず熨斗を付けて祐麒さんをプレゼントするといいよ」
「うん、そうするよ♪」

 由乃の姦計に乗せられ祐巳も祐麒を売り渡す事に賛同してしまう。そんな折、扉をノックし弟の祐麒が部屋に入る。

「お〜い、祐巳。祥子さんから電話が着ているけど………」
「今行くよ。ごめんね、ちょっと家の子機の調子が悪いから席外すね」
「はいはい、こっちは気長に待たせてもらうから存分に楽しんでらっしゃい」

 先ほどの話しで祥子への想いをよりいっそう深めた祐巳は気分良く電話を取りに向かう。

「はぁ、祐巳のやつ本当に祥子さん一筋なんだな」
「急に改まってどうしたの祐麒さん?」

 溜息混じりに呟く祐麒の様子が気になったのか、

「いや、大した事じゃないですよ。本当に大した事じゃあ………」
「もし良ければ私たちに話してみませんか?祐巳さんには話し辛い事でも私達なら聞いてあげれるかもしれませんし」
「え、でも………」
「そうそう、どうせ今日は祐巳さんの悩みを聞くために着たんだしそのついでに祐麒さんの悩みも聞いてあげるわよ」
「は、ははは、祐巳のついでですか」

 祐巳のついでに悩みを聞かれるのも堪ったものではないと思ったが、ある意味その方が気が楽な気がしたのも確かである。

「まぁ確かに祐巳のことだからお二人に聞いて貰った方が丁度いいか」
「やっぱり悩みって祐巳さんのことなのね」
「実は昨日祥子さんと一緒になりたいが為に祐巳が俺を柏木先輩に売ってしまうと言う夢を見たんだ」
「………………え?」
「所詮夢のことだと頭では理解しているんだけど今の祐巳を見ていると現実味を帯びてきたと言うか、本当にやってしまいそうというか………」

 まさか祐麒の悩みの原因が祐巳と同じ夢を見た事だとは思いもしなかっただけに二人は、特に祐巳を後押しした由乃は汗ジトな思いである。

「………まぁいくらなんでも気にし過ぎですよね。たとえ祥子さまが絡んだからと言って祐巳が本当に俺を売る分けないですよね」
「………………」
「………………」
「た、頼むから否定してください。目を背けないでください」

 果たして福沢祐麒の明日はあるのだろうか………















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