「やっぱりプレゼントするなら花束より形に残るのがいいわよね」

 梅雨も終わり夏の到来を感じさせる暑い日差しの中、この場に最も似つかわしくない人物が駅前近辺をウィンドウショッピングしていた。

「おそろいのアクセサリーも捨てがたいけどあまり派手な物はね。それにネックレスの類に至ってはロザリオの関係上止めておいた方が無難だし……」

 そもそも彼女は今まで誰かにプレゼントを贈ると言う行為をした事が無い。正確に言えば自分で探し選んだプレゼントを贈ると言う行為を、である。今までは実家の従者がいくつかピックアップしてきた中から選んでいたし、何よりプレゼントを渡す相手は家族止まりだったのだ。だが今回は違う。

「中々良いのが見つからないわね。でもこれは今まで辛い思いをさせてきたお詫びの品なんだから、安易に決めたくは無いわ」

 つい先日まですれ違いから仲違いをしてきた相手とようやく和解する事が出来た彼女は、これまでのお詫びを兼ねてプレゼントを贈ろうとしているのだ。家族の時以上に気合が入るのは当然な話しである。とは言え慣れない事をしている事もあって、中々満足のいく結果が出ていないのが現状である。

「やっぱりこういう事は瞳子ちゃんに相談した方が良かったかしら?」

 だがその考えも直ぐに却下する。そもそも今回の仲違いの原因の一つが彼女の存在なのだ。いくら誤解は解けたとはいえ、もう暫くは二人っきりで出掛けたりするような誤解を招く行為は控えた方が身の為である。

「でも本当に困ったわね。今からでも令に電話してみようかしら?」
「なんだったら令の代わりに令のお姉さまが相談に乗りましょうか?」
「え、江利子さま!?」

 突然声を掛けてきたのは前任の黄薔薇さまこと鳥居江利子だった。

「こんな所で会うなんて奇遇ね。祐巳ちゃんも居なければお供もいないなんてどういう風の吹き回しかしら?」
「わ、私だってたまには一人で買い物ぐらい行きますわ」
「まぁ他ならぬ祐巳ちゃんへのプレゼントが目的なら祐巳ちゃんは連れては来れないよね」
「解っててお聞きになったんですね、江利子さまも相変わらずのようで」

 精一杯と言うより駄目元で誤魔化そうとするが相手が悪すぎた。これまでの祥子の行動を観察していた江利子には彼女の目的は筒抜けなのだ。

「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。それよりたまには私と二人で、ってのも悪くないんじゃないの?お互い相手が相手だから妬かれる心配は無いしね」
「まぁ私としては断る理由も無いですが……」

 内心は江利子には相手から妬かれる以前の問題では?と言いたかったが、それを言えば不機嫌になった江利子が何をするか解ったものではないので敢えてそれは黙っていた。

「じゃあこの辺に新しく出来た喫茶店に行ってみようか。積もる話しはそこでしましょう」





 その後私は江利子さまと一緒に喫茶店でティータイムを取り、本来話す必要の無い6月の一件まで話す羽目になりました。

「祥子らしいといえば祥子らしいドジよね。けど妹が絡むと途端に弱気になるのは令と一緒の悪い癖ね。仮にも薔薇さまの一人なんだからもうちょっとお姉さまらしくなってもらわないとね」
「何もそこまで言わなくても……大体令と一緒にされるのは不本意ですわ。私は令ほど意気地なしでは無いもの」
「はいはい、そう言う事は聖や蓉子の力を借りずに自力で解決できるようになってから言ってちょうだい」

 ぐっ、痛い所を突く。私だって時間さえかければ自力で解決できたわ。でもそれを言っても負け犬の遠吠えと思われるだろうからここは耐え忍ぶしかないわね。

「あぁ、それは無理無理。祥子が復活するの待ってたら月日がいくらあっても足りないし」
「なっ!人の心を読まないで下さい!!」
「いや、祥子が顔に出過ぎなだけだって。祥子もだいぶ祐巳ちゃんに感化されたね〜」

 わ、私が百面相を!?そ、そんな……

「っじゃなくて!何で私が自力で解決するのが無理だと仰るんですか!?」
「んー、だって祥子って追いつめられた時自分から折れるタイプじゃないでしょ。むしろ意固地になるタイプ。まぁ今回は自虐路線まっしぐらだったようだけど、結局は自分からはどうにも出来なかった事には変わりないじゃない」
「で、ですからいずれ……」
「時間を掛ければ掛けるだけ素直になれなくなるものよ。大体それまでの間に祐巳ちゃんが妹を作ってたとしたら?しかも祥子との一件から妹にのめり込み、強く依存してたらどうするのよ?仮に仲直りは出来ても前のような関係には戻れないわ。そうなったら本末転倒でしょ」

 認めたくは無いけど反論する言葉が見つからない……悔しいけど江利子さまの仰る通りかもしれない。

「あ、そう言えば祐巳ちゃんに妹で思い出したけどさ、祐巳ちゃんってまだそういう浮いた話は無いの?」
「ゆ、祐巳に妹ですか?特にこれと言った話しは聞いてませんね」

 確か一時期不仲説のあった瞳子ちゃんと親しくしている姿を見て周りが『紅薔薇の蕾の妹誕生!!』なんて騒いでいたようだけど、祐巳が瞳子ちゃんにロザリオを渡したと言う話しも無いしさすがにそれは無いよね。

「知らぬは姉だけ、ってならないように気をつけなさいよ。良くも悪くも祐巳ちゃん、薔薇の館に出入りするようになってからどんどん魅力的になってきてるからね」
「それは勿論私の指導の賜物ですわ。祐巳が初めて薔薇の館に来た時に私がお姉さま方に言ったあの宣言は嘘偽りは無いですもの」
「あの時は場の流れで祐巳ちゃんを妹にする、って言っておいてよく言うよ。しかも祥子はあの子に試練ばかり与えていつもフォローは私たちがしているのにね〜」

 〜〜〜っ!どうしてこの方は先ほどから人の揚げ足ばかり取るのかしら。令もよくこんな人の妹になる気になったわね。

「でも実際どうなの?祥子としては祐巳ちゃんにどんな妹が出来るのか楽しみじゃないの?」
「正直あまり興味は無いですね」
「ん、気にならないの?」
「だって祐巳は薔薇の館に来る前から私のファンだったんですよ。そんな祐巳が妹にするとしたら私に似た立派な子を妹に迎えるに決まってますもの」

 だから私は祐巳がどんな妹を持つかなどさほど気にしてはいない。二年後に紅薔薇さまの名を継ぐに相応しい子を連れてくるに決まっているのだから。

「浸っている所を悪いけど、いくつか突っ込みどころが有るんだけどいいかな?」
「何でしょうか?」
「まず第一に入学式やマリア祭の時にそんなめぼしい子がいたの?」
「……たまたま私の目に止まってないだけですわ。祐巳とだって知り合うまで時間が掛かったんですし」

 そうよ、祐巳とだってたまたま出会う機会に恵まれなかっただけで、もっと早くに出会っていれば志摩子より先に祐巳にロザリオを渡そうとしたわ。だから祐巳もまだ紅薔薇の蕾の妹に相応しい相手と知り合う機会に恵まれないだけ。志摩子と乃梨子の二人が知り合うのが早すぎただけよ。

「じゃあ仮にそういう子がいたとしましょうか。で、祥子は自分に似た孫が出来ても平気なの?普通自分に似たタイプの人種って側に居られると反発するものよ。由乃ちゃんとドリルちゃんが良い例じゃない」
「そ、それは……」
「もし祐巳ちゃんがそんな子を連れてきた日には祥子、貴女自分自身相手に祐巳ちゃんを取り合うようなものよ」
「そ、それはちょっと困るかも……」

 そうなると私と同じタイプは止めた方がいいのかしら?でもそうなるとどんな子がいいのかしら?祐巳と同じ子犬系?確かにこれなら妹孫共に可愛がろうと思うわね。

「少しは自分の孫について真剣に考える気になったようね」
「え、まぁ山百合会を背負って立つ者としてありとあらゆる状況を想定しておくのは当然の行為ですしね」
「うふふふ、じゃあ私の直感を言ってもいいかしら?」
「ええ、ぜひお聞かせ下さい」

 江利子さまのお考えによると一人は所謂祐巳の信仰者タイプ、今までの薔薇ファミリーに居なかったタイプの祐巳は私たちとは違った形の固定のファンがいそうだと言うことだ。今まで誰かに尊敬や崇拝される事と縁のなかった祐巳が、その手のタイプに押される形で妹を作るのではないかと言う予想である。

「もう一つは聖のようなタイプかな?」
「せ、聖さまですか!?」
「そ、あの聖と同じタイプよ。だって祐巳ちゃんも聖の事満更じゃなかったじゃない。しかも聖の時はどこか志摩子に遠慮してたからまだ良かったけど、今度ばかりは志摩子の目を気にする必要がない分危険かも」

 まさか、ね。いくらなんでも祐巳が聖さまのような子を妹にするわけが無いわよね。でも前回の一件も祐巳が最後に頼ったのはクラスメイトの由乃ちゃんや蔦子さんでは無く聖さまだった……不本意だけど祐巳の中で聖さまが特別な位置に居るのは間違いないわ。でも、

「聖さまのようなタイプであれば少なからず噂の一つや二つぐらい出てもおかしくありません。でも今の所そういうタイプの新入生の話題は無いのだから、その可能性は低いと思います」
「あらら、簡単に返されちゃった」
「江利子さま、私は真面目に話しているんですよ!」
「さっきまであまり乗る気じゃなかったくせに……。まぁいいわ、あと思いつくとしたら祐巳ちゃん相手に素直になれないタイプかな」

 祐巳を相手に素直になれないような子が?そんな子を祐巳が妹にすると言うの?

「さしずめ普段は祐巳ちゃんに憎まれ口を叩くタイプね。それでいて何だかんだいいながら祐巳の側に居ようとするんだろうね」

 ん?気のせいかしら、今度の予想はどこか引っ掛かるわね。

「そんな姿が可愛くて仕方ない祐巳ちゃんはその子からどんな事を言われても平然と付き合っちゃうんだろうね。で、天然ボケを醸し出しながらも迫ってくる祐巳ちゃんを邪険に仕切れずそのまま流されてしまう、さっきの逆バージョンかもね。祐巳ちゃんが聖役で新入生が祐巳ちゃん役と言う感じでさ」
「そ、そんな事があるわけ無いじゃないですか」

 瞳子ちゃんのことは違うよね、祐巳?私の親戚だから仲が険悪のままじゃあ私に悪いと思ったから瞳子ちゃんのことを構っているのよね?

「そしてその子は嬉しさを必死に誤魔化そうとするんだけど、ドリル状の髪は嬉しそうに回転するんだわ」
「瞳子ちゃんの髪はドリルじゃありません!!」
「あれ?瞳子ちゃんとは一言も言ってないけど?」
「っ!?」

 ワザとだ、この人はワザと言っているのだわ。でも江利子さまが何の根拠も無しにこのような事を仰るとも思えない。と言う事は私の未来の孫は瞳子ちゃんなの!?

「で、祥子はその瞳子って子が怪しいと思ったわけだ」
「そ、それは……あくまで有力候補の一人としてですわ」
「でも歴代の薔薇ファミリーを振り返ってみても妹候補が同時に二人も三人もいたケースは無いからね。つまり祥子がそう思えたって事はほぼ確定なんじゃないの?」

 瞳子ちゃんが祐巳の妹……確かに瞳子ちゃんが相手なら私もうまくやっていく自信はある。ただそれはあくまで私と瞳子ちゃんが、なのだ。それが原因で又祐巳との関係が拗れたら……

「江利子さま、真に申し訳ないですが急用を思い出したのでこの辺で失礼します」
「そう、だったら祐巳ちゃんに宜しく言っててね」
「ええ、解りましたわ。ではごきげんよう」
「ごきげんよう」

 プレゼントも大事だけど祐巳がロザリオを渡す前に釘を刺しておかないと。まずは松井に迎えに来てもらい、祐巳の家に向わないと。あと瞳子ちゃんにも当分山百合会の仕事の手伝いに来ないよう言っておかないと。あとそれから……

「とにかく祐巳、あなたにはまだ妹は早いわ。当分は私だけの妹でいなさい」






「ふふふ、いい感じに扇動できたわね」

 祥子が去る姿を江利子はしてやったりと言った顔で眺めていた。

「次は令にも嗾けてみようかな。そして令とは別に由乃ちゃんには早く妹を作るように嗾けてみる、というのも悪くないかも♪」

 鳥居江利子、リリアンを卒業した今もその性格は変わる事はなかった……











 あとがき

 作った後で気が付いた事だけど『またコメディか!!』と言った感じです。というのも自分が初めて書いたSSもコメディ路線なんですよね。で、今回初めて仕上がったマリみてSS(先に製作を始めたのは別作品)もコメディ、どうも自分にはシリアスの似合わないSS作家なのかもしれません。

 それはさて置き、一応今回の作品について解説を入れとこうと思います。時間設定は『パラソルをさして』と『子羊たちの休暇』の間です。なので可南子はまだ出ていませんし、小笠原の別荘に行く前なので祥子が心配するほど祐巳と瞳子はそこまで親しいとは言い難いです。まぁ実際の所はどうであれ、江利子に扇動された祥子が姉バカ振りを曝け出す、がテーマなのでその辺はあまり問題ではないでしょう。

 しかし書いてて思いましたが紅薔薇ファミリーって姉バカというイメージが強いですね。祥子は言うまでも無いですが蓉子も間違いなく姉バカでしょう。祥子の事になると例え火の中水の中、OGなのに私用で学内放送を使って祐巳を呼び出した事がいい例でしょう。ですがそんな姉バカ路線な所が紅薔薇ファミリーの見所の一つだと思っています。と言う訳で今度は蓉子の姉バカぶりでも書いてみようかな?と思いつつ書いているのは書きかけの志摩子SSではなく、令SSだったりしてます(苦笑)。

 ではちょっと長くなりましたが感想とか頂けると非常に嬉しいです。これから先チョクチョクマリみてSSを書いていく予定なので今回初めて自分のSSを読まれた方にはどうかコルトのHNを記憶に留めて頂ければ幸いです。そして何度か自分のSSを読んでくれている読者の方々には今後ともよろしくお願いします。

 ではもしよければ下記ファームかメール又は掲示板に感想を頂けたら幸いです。ではでは〜





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