「祐巳さま………」
「違うでしょう、瞳子。それはついさっきまでの呼び方、じゃあ今は?」

 それは言われるまでもない事、だが気恥ずかしさから素直に言えなかったのだ。とは言えせっかく瞳子の首には二人の絆の証がかけられているのだ。恥ずかしさを押し殺しながらも言い直す。

「お、お姉さま………」
「はい、瞳子」
「あ………」

 これでもかと言わんばかりに恥ずかしかった。だがそれ以上に祐巳のことを『お姉さま』と呼び、それに応えてくれる事に至上の喜びを感じてしまう。

「お姉さま………」
「うん」

 思わずもう一度呼んでしまう。その位瞳子には夢のような一時なのだ。

「お姉さま………」
「心配しなくても私は瞳子の傍にいるよ」
「お姉さまーーーーーー!!」

 今まで意固地になって素直になれなかった。手を伸ばせばそこに祐巳が居たのにその手を取る事を拒んでいた。だがそんな日々はもう終ったのだ。瞳子が祐巳のロザリオを受け取ったこの瞬間に。

「私、お姉さまの妹で良いんですよね?」
「勿論よ、でも………」
「お姉さま?」
「瞳子さん、祐巳さまは私のお姉さまであるのよ」

 突然の可南子の登場もさることながら、祐巳に寄り添うようにもたれる姿、そしてそれを拒むどころか満更ではない祐巳の顔に落ち着けるはずがなかった。

「なっ!?可南子さん、これはどういうことですか!!」
「確かにロザリオは瞳子さんに渡されたわ。でも………」
「えと、俺可南子を嫁にする事に決めたんだ」
「つまり弟の祐麒の嫁だから私と義理の姉妹、つまり私は可南子のお姉さまでもあるのよ」

 確かにリリアンならともかく、世間一般に他人が妹になるにはこちらの手法が一般的である。もっともそれだけの為に結婚しようとする人間など早々いないだろう。

「ちょっ、ちょっと待って下さい。だからってお姉さまと姉妹である私の前で可南子さんが『お姉さま』と呼ぶなんて………それにそもそも二人ともまだ学生じゃないですか!非常識極まりないですわ!!」
「瞳子ちゃん」
「お姉さまっ!」

 瞳子の必死の訴えに思わず俯く祐巳ではあったが

「「「口答え、するなーーーーー!!」」」

 可南子と祐麒の三人で声を合わせ瞳子を全否定する。

「なんでじゃーーーーーー!!」

 ショックのあまり意識が闇へと沈んでいく。だが

「はっ!?」

 目を覚ませばそこは見慣れた寝室、そしてようやく夢だった事に気付く。

「あ、悪夢にしてもタチが悪過ぎですわ。せっかく祐巳さまの妹になれたというのに………」

 そう、先日瞳子が祐巳の妹になった事は紛れもない事実。だがあまりにも荒唐無稽な悪夢に最悪の目覚めを迎える事になった。






 親友






(そう言えば可南子さんは私が妹になった事をどう思うのかしら?)

 悪夢を忘れきれない瞳子はふとクラスメイトの事を思い浮かべる。かつては犬猿の仲、水と油等と言った言葉が綺麗に当てはまるくらい反発しあった仲だったが、最近はお互いを気にかけるようになってきている。

(違いますわね、私が可南子さんのお世話になりっ放しなだけですわ)

 思えばマリア祭の一件以来、瞳子が祐巳以外の誰かの為に世話を焼く事は皆無。実際は祐巳や乃梨子、そして学園祭以降は可南子も加わり世話になりっ放しなのだ。

(確か可南子さんもお姉さまの事を………)

 そもそも二人が反発しあったことの発端は祐巳の存在、一時は瞳子と可南子で紅薔薇のつぼみ争奪戦のように見られていたのだ。そしてそれは可南子から何も聞かされていない瞳子には可南子の突然の辞退で有耶無耶のままお流れになっていた。

「瞳子さん?」
「うわぁ!?」
「人の顔を見るなり驚くなんて、私はそんなに怖い顔かしら?」
「えぇ、突然現れるとまるで貞○みたいで………じょ、冗談ですわ。本気にしないで下さい」

 考え事している際、突然当人が目の前に出てこられては驚くなと言うのが無理な注文である。だがその事をそのまま言うつもりもないし、誤魔化そうにも昔の癖が抜け切れないのか余計な一言が付いてしまう。

「そう、なら良いのですがもし冗談でないなら………」

 だが冗談を抜きにクラスでも平均よりやや低い身長の瞳子にとって、可南子のような長身の女性に凄まれるのはかなり重圧がある。その上いつもの言い合いではなくこういう怒り方をした可南子はある意味貞子と同格、それ以上の怖さがあるのだ。

「ちょうど可南子さんの事を考えていたから驚いただけですわ」
「私の事?」
「あっ!」

 思わず本人を前に本音を漏らしてしまう。別に悪口を考えていたわけではないが、事情が事情なだけにある意味悪口より言い辛いのだ。

「晴れて祐巳さまの妹になれたというのに私の事を考えていたなんて、祐巳さまが聞いたら妬かれてしまうかしら?」
「こ、この事はお姉さまには………」
「それは構いませんが何を考えていたのか説明してくれますか?」
「うっ………し、仕方ありませんわね」

 渋々先ほどまで考えていた事を顔色を窺いながら説明していく。ただし夢の内容までは話さなかった。

「はぁ、何を悩んでいるかと思ったらそんな下らない事を考えていたんて………」
「く、下らないって………」
「私が祐巳さまの妹になるつもりはないと言う話、風の噂で聞いたでしょう?」
「わ、私はそんな人伝で聞いた不確かな話を真に受けたりしませんし、下種な勘繰りはしませんわ」

 言っている事は正論だが肝心の瞳子が噂話の真相が気になって仕方ないのは一目瞭然である。

「確かに私は祐巳さまに妹になるつもりはないとそう言ったわ」
「私自身今更こんな事を聞くのはどうかと思いますけど、それは私のように意固地になっていただけじゃないんですか?本当は可南子さんも………」
「本当に今更ね。でも今だから聞けるとも言えますね。瞳子さんが祐巳さまの妹になる前はこんな事を聞く余裕はありませんでしたからね」

 何よりあの頃の瞳子に可南子の胸の内を察する事も出来なかっただろうし、仮に気付いたとしたら祐巳の気持ちもお構い無しに身を引いていただろう。そしてそれは可南子にとっても望ましい結末ではない。

「祐巳さまの妹にならないと宣言した時、迷いはなかったわ。だってあの時にはもう気付かされていましたからね。祐巳さまにとって誰が一番妹にしたい人なのかをね」
「可南子さん………」
「どうせ届かない想いなら変な重荷を背負わせたくなかった。そして私としても面と向かってフラれなくてすみますからね」

 それが可南子に出来た譲歩であり、傷を広げない自衛手段だった。だが二人が姉妹になるまで紆余曲折あり、結果可南子は祐巳から距離を置きたくても置けなかった。

「なのに瞳子さんときたら………あなたの事で傷付く祐巳さまを目の当たりにして何度自分の発言を撤回したい思った事か」
「全く持って返す言葉がありませんわ。情けないですけど本当に可南子さんに世話になりっ放しで下から………」
「そう思うならもうそんな顔しないで頂戴。色々あったけど無事祐巳さまと姉妹になったのだから。それなのにそんな顔するなら引っ叩きますよ」
「そう、ですね」

 可南子や乃梨子に迷惑をかけていると自覚して以来、二人にどうお詫びをすべきかずっと考えていた。だが可南子のお陰で瞳子も少しだけ理解できた気がした。少なくともこの二人にはいつまでも引き摺る必要は無いのだと、本人を前に口には出したくは無いがこれが『親友』なのだと

「それはさすがに怖いから気を付けないといけませんわね。特に可南子さんに引っ叩かれたらせっかくのこの顔が見るも無残な姿にされそうですしね」
「あら、引っ叩く方も命懸けなのに随分な言い様ね。こっちはいつそのドリルが飛んでくるか気が気じゃないというのに」

 だから普通にいつも通りの会話をする、ここまでヒートアップするのは久しぶりではあるがこれが二人にとって自然体の付き合い方なのだ。

「ド、ドリルですって!?」
「あら、何かおかしい事を言ったかしら?あなたのそのドリルヘアーは山百合会幹部も公認のことでしょう」
「誰がそんな事言いましたの!?」
「確か由乃さまと聖さまに江利子さま、おめでとう瞳子さん。OGの方々からも好評のようね」
「瞳子、いい加減にしないと祐巳さまに叱りにきてもらうよ。それに可南子さんも、いつまでもそんなんじゃあ来年妹が出来ないよ」

 そして呆れた顔をしながらも二人の間に乃梨子が止めに入る。これが一年椿組の日常、そして三人の関係。

「わ、悪いのは可南子さんの方ですわ」
「乃梨子さん、何を見ていたんですか?どう見ても問題があるのは瞳子さんじゃないですか」
「五十歩百歩………」
「「なっ!?」」
「それとも目糞鼻糞を笑うの方が良い?」
「「五十歩百歩でお願いします」」

 後にこの光景を目の当たりにした日出美はこう語る。

『次代の薔薇さまは紅から白中心になる』

 と











 あ と が き

 「妹オーディション」以降主要登場人物に出なくなり桂さん化するかと思われた可南子。ですが今野緒雪先生は全国の可南子ファンに救いの手を差し伸べましたね。個々最近のマリみてで徐々に出番を取り戻す可南子、ついに「大きな扉 小さな鍵」で主要登場人物に再登場です。これは何かSSにしないと、そう考え執筆したのですが………可南子SSと言うより瞳子&可南子SSですね。
とは言え祐巳争奪戦の時より輝いている個々最近の可南子の活躍は、瞳子党の私も惹かれるものがあります。それだけに椿組トリオが後の薔薇さまとならない事が本当に悔やまれます。マリみてが翌年度も続くかどうか不明ですが、祐巳の妹問題以降も可南子には頑張ってもらいたい限りです。














 お ま け



「あ、忘れていたけど私まだ祐巳さまの妹の件諦めたわけじゃないわ」
「か、可南子さん!?」

 突然の可南子の発言に悪夢が過ぎる。

「まさかとは思いますけど祥子お姉さまのように祐麒さんなら大丈夫だと言う事は無いですよね?あまつさえ祐麒さんの嫁になってお姉さまの義妹になろうとは考えてませんよね?」
「随分と具体的ですわね。瞳子さん、そんな事考えていたんですか?」
「べ、別にこんな事計画していたわけじゃないですわ。ただそんな夢を………はっ!?」

 先ほどと言い、こうもポロッと言ってしまう辺り瞳子も随分ガードが甘くなっている。

「中々楽しそうな夢を見たようね。でもそうね、悪くない考えだわ」
「か、可南子さん、祐麒さんと付き合おうなんて私が許しませんわよ」
「何で瞳子さんの許可が必要なのかしら?それとも祐巳さまだけでは飽き足らず祐麒さんまでモノにしないと気が済まないかしら?」
「お姉さまの妹は私だけで十分です!!」

 だが二人は気付いていなかった。再び言い合いを始める横で明後日の方を向きながら気まずそうな顔をしている乃梨子に

(別に祐巳さまのことをお姉さまと呼ぶつもりは無いんだけど………黙っておいた方が身の為かな)

「姉妹の座を手にしたのだから祐麒さんは私のモノです!!」
「お姉さまも祐麒さんも誰にも譲りませんわ!!」

 既に論点がずれている事にも気付かずヒートアップする二人が乃梨子から真相を聞けるのはまだまだ先の話だった………

『二条乃梨子さん、情報通りなら………やはり只者ではありませんわね』





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