『口ではどんなに否定しようと体は正直』

 言い方は悪いが昔の人はうまいことを言ったと思う。例えどんなに現実から目を背けようと、自分の体だけは正直に反応するものなのだ。

「ふ、増えている………」

 そしてこのヘルスメーターも………

「も、もしかしたら壊れているだけかも………そうだ、お父さんのダンベルを試しに乗せてみよう」

 駄目元でダンベルを乗せたがダンベルの重量分の数値が正確に出しただけだった。

「はぁ………最近ちょっと調子に乗って甘いものをよく食べてたから当然といえば当然の結果なのよね」

 だがここで挫けてはいけない。お姉さまに失望されない為にも早くもとに戻さないといけない。

「こうなった以上やるべきことはただ一つ、ダイエットあるのみ!!」







 体は正直






「ねぇ祐巳さん、今日のお弁当は野菜中心なのね」
「と言うか野菜だけじゃない。一体どうしたの?」
「実は最近ちょっと体重が………」
「あぁ、なるほどね」

 あの後祐巳は母に相談して食事制限に協力してもらった。親としては食事に制限をかけることには抵抗があっても、同じ女として祐巳の気持ちがよく理解できたのでカロリーの低い野菜中心のおかずにしてもらったのだ。

「でもあまり気にしない方がいいと思うわ。祐巳さんが気にするほど見た目に変化はないわよ」
「そう言ってくれるのはありがたいけどやっぱり気になるものは気になるからね」
「まぁ女の子なら当然と言えば当然よね。でも私はするだけ無駄な気がするけどね」
「それって私が三日坊主ってこと?」

 確かに甘いものの誘惑に堪えるのは至難の業、だが何も薬物のような中毒症はないのだから不可能じゃないと見越していたのだが、

「何もそういう訳じゃないわ。それとは別の理由よ」
「私も由乃さまの意見に同感です」
「乃梨子ちゃんまで!?」
「いくつか理由がありますがお聞きになりますか?」
「そうね、それが本当なら改善する必要があるしね」
「じゃあ乃梨子ちゃん、まずは私から言わせて頂戴」

 そう言って由乃は探偵が犯人にするように祐巳に指を刺してくる。

「まず第一に祐巳さん、今祐巳さんが食べている物は何?」
「お、お昼ご飯だけど………」
「そうじゃなくて、今祐巳さんが口に入れた物よ」
「チョ、チョコレートです………」
「ダイエットしようとする人間が何を食べているのよ」
「チョコは非常食として有効な食べ物なんだよ。ほら、遭難した時もチョコのお陰で助かったって話もあるぐらいなんだから」

 見当違いな答えに一同は呆れてしまう。

「それが言い訳になると?」
「ならないよね………」
「野菜だけで寂しいのはわかるけどそうやって甘いものを食べてたら意味ないじゃない」

 全く持ってそのとおりである。ただこれは一口サイズを四個までにするから多分大丈夫なはず、多分………そう思い、さらにチョコをもう一つ口に含める。

「じゃあ次は私の番ですね。まず祐巳さんが人気者なのが要因の一つです」
「私が人気者?それについてちょっと疑問があるけど人気者だと何で無理なの?」
「そろそろ来ると思います」
「来る?」
「「ごきげんよう、祐巳さま!!」」
「ご、ごきげんよう、瞳子ちゃん、可南子ちゃん」

 突然二人が競うように祐巳の前に現れ、何やら可愛らしいラッピングをした箱を向けてくる。

「きょ、今日調理実習でマドレーヌを焼きましたの。帰って家族に振舞うつもりでしたけど、ちょっと量が多すぎたので祐巳さまにも分けて差し上げますわ」
「あら、祐巳さまに残飯処理をお願いするのに随分な言い方ですね」
「ちょっと、可南子さん。私のマドレーヌのどこが残飯なんですか!!」
「あれを見たら誰がどう見ても残飯処理と思いますわ。あ、ちなみに私のは誰かさんと違ってちゃんと焼けてますから安心してください」

 乃梨子は瞳子と可南子のクラスメート、授業で調理実習があれば二人がどういう行動に出るかは乃梨子でなくても解りきった事だろう。

「二人とも気持ちは嬉しいけど今はちょっとそういう気分じゃあ………」
「なっ!?私が作った物は食べれないと仰るんですか?」
「いや、そういうわけじゃなくて………」

 ダイエット中だから受け取れないと言おうとしたが、どうもうまく出来ていない事を理由に断られていると勘違いしているようである。

「解りました、どうせ私の不出来なマドレーヌなど食べる気になれないのも無理もないですよね。このことは忘れてください」
「と、瞳子ちゃん落ち着いて。可南子ちゃんも何とか言ってよ」
「瞳子さん、諦めましょう。祐巳さまは私たちが作った物より紅薔薇さまからのプレゼントじゃないと受け取ってもらえないようよ」
「か、可南子ちゃんまで………」

 思い込んだらひたすら我が道を突っ走る節がある二人である。いまさらダイエット中と言ったところで気休めで言っているのだと勘違いされるのが関の山である。

「はぁ、こうなったら覚悟を決めるか。えい!」
「あ!?」
「ちょ、ちょっと祐巳さま!?」

 二人から箱を強引に取り、二つの箱からマドレーヌを一つずつ取り出して食べる。

「後輩からこうやってプレゼント貰うなんて初めてだから思わず耳を疑ってしまったよ。でも二人とも本当にありがとうね、お昼ご飯がちょっと物足りないと思ってたから本当助かるよ」
「だったら最初っから素直に受け取ればいいんですよ」
「でも喜んでもらって何よりです」

 不本意ながら再びダイエットから遠のいてしまったものの、二人の嬉しそうな顔を見れば満更でもないと感じてしまう。

「そしてもう一つの要因は祐巳さまが優し過ぎるというところです。それがどういう意味なのかはもう言うまでもないですね」

 瞳子と可南子に聞こえないよう小声で言う乃梨子の言葉が痛いほど理解できてしまう。

「じゃあ私たちはこれで失礼しますね」
「ごきげんよう、祐巳さま」

 二人が去った後、いまだに数個ずつ残った箱を見て思わず嘆息を漏らす。

「二人からのプレゼントを誰かに分けるのも失礼だよね?」
「そうですね、頑張って食べてあげて下さい」
「ねぇ祐巳ちゃん、追い討ちをかけるようで悪いけどちょっといいかな?」
「何ですか、令さま?」

 こんなことならチョコを食べなければよかったと後悔する祐巳に今度は令が申し訳なさそうに声をかけてくる。

「実は先日祥子からあるお願いをされてね、そのお願いというのが………」
「ごきげんよう、祐巳」
「ごきげんよう、お姉さま」

 令の話の途中ではあったが、愛しのお姉さまの登場に祐巳の意識は令の話から祥子に移ったようだ。

「今日は祐巳にプレゼントがあるのだけど受け取ってもらえるかしら?」
「お姉さまからのプレゼントなら喜んで♪」
「先日祐巳のためにオペラにチャレンジしたの」
「お姉さま、オペラ歌手になったんですか?」
「祐巳さん、多分オペラというのは洋菓子のことじゃないかしら?」

 これが瞳子や静辺りなら舞台のオペラもありえたかもしれないが、今回は志摩子の言うとおり洋菓子のオペラのほうである。

「うわぁ〜、凄い美味しそうですね」
「祐巳さん、祐巳さん。オペラって確かに美味しいけどカロリーも高めよ」
「え!?」

 それ以前にそもそもケーキの類はカロリーが多いのでダイエット中に食べるなど以ての外である。だが大の甘党の祐巳としては目の前に甘い物を出され、且つ初めて目にする祥子の手料理を手を出さずにいるのは酷と言うもの。しかも、

「まさか瞳子ちゃんや可南子ちゃんのプレゼントは受け取って私のプレゼントは受け取らないなんて言わないわよね?」

 どこで見ていたのか先ほどの一件で二人に張り合っている節のある祥子のプレッシャーを前に祐巳が断れるはずがない。

「じゃ、じゃあ頂きますね」

 泣き泣きオペラを口にする。

「お、美味しいです。今まで食べてきたケーキの中で一番美味しいです」

 お世辞ではなく本当に祥子の作ったオペラは美味しかった。だがカロリーの事を考えると美味しさの感動とは別の意味で涙が出そうである。

「喜んでもらえて何よりだわ。実は祐巳が喜ぶと思って多めに作ったの。ちょっと多いかもしれないけどこっちも食べてくれるわよね?」
「は、はい………」

 机の上にあるオペラは今祐巳が食べているのを含めて8個、本当は祐巳だけではなく他の皆にも振舞うつもりだったのだろうが、祐巳が喜んでくれていると思ったの祥子は全て祐巳にあげようというのだ。

「令ちゃんが言っていたのってこういう意味だったんだね」
「普段ならちょっと多いかな、で済んだ事でも今の祐巳ちゃんにこれはちょっと酷だよね」

 そして泣きながら全てのオペラを平らげようとする祐巳の姿に思わず一同は手を合わせてしまう。

『ご愁傷様』

 と………

「祐巳、遠慮せずに食べてね」
「は、はい、お姉さま………」

 その後ヘルスメーターに乗った祐巳がその表示された数値を見て嘆くのはまた別の話である。











 あとがき

 社会人になって以来健康診断以外にヘルスメーターを使うことがなかった日々、病院に通うことがきっかけでふと自身の健康に気になって色々調べている内に体重が増えていることに気がつきました。さて何が原因だったんでしょう?あれこれ考えている内にこれをネタにSSを書いてみようと思った次第です。

 そこでマリみての中で一番ダイエットに関わりのありそうなキャラはと考えると

 3位 松平瞳子(こと祐巳に関わること以外では自身の感情に素直な彼女ならついつい食べ過ぎたりするかも)

 2位 島津由乃(令の手料理に餌付け(?)されている由乃も危険性大、ただし元病人とはいえ一応剣道部所属なので実際のところは半々と言った具合)

 1位 福沢祐巳(言うまでもなくマリみてで甘党としての描写が一番多かった名実共に大の甘党。しかも部活に所属していないので危険性は由乃たちの比でないでしょう)

 という訳で祐巳のダイエットSSに決定しました。まぁ実際はダイエットのダの字もできていませんですけどね(^^)

 私に関して言えばしばらくお菓子作りを止めた甲斐あって最悪の事態は逃れました。これから暑くなれば否応無しでも体重(体力も!?)が落ちるので油断さえしなければ大丈夫でしょう。そんなわけで皆様も太り過ぎない程度に気をつけて下さい。でないと後で私みたいにゾッとする思いを体験しますよ(苦笑)。

 それでは長くなりましたがまたの機会をお待ちしてます。ではでは〜

 ではもしよければ下記ファームかメール又は掲示板に感想を頂けたら幸いです。ではでは〜







名前(匿名でも構いません)  
Eメール(匿名でも構いません)
URL(HPをお持ちであれば) 

この作品の感想を5段階評価で表すとしたらどのくらいですか?


メッセージがあればどうぞ










inserted by FC2 system